第27話

「京や但馬になんかいない、奥州なんか行かない!!貴方のいる場所にいる!!」




「ヒナ!!」





わかってくれ、と、彼は呟く。



何を、理解しろと言うのだろうか。





貴方が、ここで死ぬことになるって?



私が、ここにいたら、一緒に殺されることになるって?






そんなの嫌だから、京へ戻れと?



但馬へ戻れと?



真白くんのもとへ、奥州へ行けと?



その現実を理解しろと?






貴方は今息をしているのに、それを諦めろって言うの?







「・・・共に死にたいなんて、思わない」






貴方と一緒に、死にたいなんて思わない。


私と貴方の物語を、おキレイなもので終わらせたくない。



美しく、まとめたくなんて、ない。





だって、私も貴方も生きている。



色を纏って、千も万もの色を放って、この鮮やかな世界で生きている。




生きているじゃないの。





そのことを、諦めたくなんてない。



堪えていた涙が、ぼろりと落ちる。



透明無垢に。







「・・・貴方と共に、生きていたいのよ・・・」







ずっと。


できれば、この先何年も、何十年も。





共に死ぬことよりも、


共に生きていたい。





そう思うことは、間違っているとでも、貴方は言うの?






「・・・私はもう・・・何も持っていない。配流中の身だ・・・」





何も。



富も、権力も、側近すら失ってしまった。




自分に味方してくれる人、一人もいない。




彼は、苦しそうに、呟く。



帝の皇子の肩書きも、今は地に伏している。






「何も持っていないなんて、嘘」





ふふっと笑う。


彼は、え?と言う顔をした。





「私がいるでしょ?」





にこっと笑う。






「互いの命があるだけで、充分じゃないの。それ以上に、何か必要?」






何も、いらないでしょ?


別に、富や権力なんて、必要ない。




そんなもの、いらない。

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