第29話
そっと、顔を上げた。
徐々に視線も上げる。
けれどすぐに落胆した。
俺と後醍醐帝の間には、御簾が掛かっている。
その姿が影でしか見えない。
「・・・桜井、大和と聞いた。相違、ないか?」
「ございません。」
じっと見つめる。
目の前に座っている人を。
御簾があるせいで、その姿は朧だけれど。
「未来を進言したまで、か。それが誠であれば面白い。そなたは何者だ?」
何者?
問われて、二の句が告げない自分がいる。
何者か、なんて、自分でもわからない。
俺はもう、現代に生きる人間じゃない。
かと言って、この時代に馴染んでいるわけでもない。
まるで異質。
俺だけ、違う。
「・・・この世界はもう、どう進むか決まっているのです。私は、それを間違いのないように進行させるようにこの時代の流れを整えているのです。」
御簾の影がゆらりと揺れたような気がする。
さらに色濃く影が御簾に映る。
興味を持っていると、気付く。
にいっと笑った。
「・・・歴史は、歴史通りに。」
一字一句はっきりと言葉を落とす。
「私は主上のご生誕から、御崩御まで知っております。その生涯を、知っております。」
俺は行く。
誰も届くことのない高みまで。
ずっと遠くまで。
後醍醐天皇すら、超越して。
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