第28話

「手を出せ。」



「え?もう?」




まだ寺じゃないだろ?と思ったけれど、その目は俺を疑っている。




しょうがないと思って両手を後ろに組むと、ぐるぐると縄で縛られた。





そのきつさを感じて、本気だなと思う。





「歩け。」





名和は俺の腕から伸びる縄を引いて言った。





まるで罪人。



でも、それもしょうがない。






俺の望む未来は、罪に値すると思うから。







しばらく歩くと、前方に寺が見えた。



その一室に通されると、言われた通り足まで縛られた。




濡れた着物が体にへばりついて気持ちが悪い。



それがまた足枷のようで動けない。



立つことすらままならない。






「頭を下げろ。主上がいらっしゃった。」







名和長年は小さく呟いた。



それを聞いて慌てて頭を下げる。



芋虫状になっているから、なかなか難しい。






御簾が上がる音がして、息を飲む。




音が、しない。



板間を歩く、音が。




ただ、衣ずれの音だけが響いた。






それを聞いて、体が震える。




いつ、俺の前まで来たかわからなかったから。







「・・・面白いことを、言ったそうだな。」






冷たい声、だと、思った。



ただ。




滲むのは、恐怖?



それとも畏れ?






ぎゅっと、唇を真一文字に結んだ。







「未来を、進言したまでにございます。」








顔を上げずにそう言った。



声は揺れていない。






「顔を、上げよ。」







その声に、心臓が一度飛び跳ねる。



後醍醐天皇。





俺の前にいるのは、あの後醍醐天皇。






嬉しいのか、怖いのか、



よくわからない感情が胸の内を支配している。

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