第27話

「・・・後醍醐帝に、報告、したら?」




「そ、そのような、世迷言!!」





「嘘だと、思っていればいいよ。ただし、あんたたちは数日後に鎌倉からの使者が来たときに後悔するはず。俺の言っていたことが正しかったって知った時にね。」






名和長年は、じりっと足を引いた。



あと一押し。






「俺は未来が見えるんだ。これを逃したら、桜井大和はもう二度と後醍醐帝の前には現れない。二度と、ね。」






高師直として会うかもしれないけれど。



桜井大和としてはもう金輪際会わないかもしれない。






「伝えるくらい、できるだろう?」







その耳に、入れるくらい。



そこから、侵食してやる。





暗い暗い闇が、じわりじわりと体の内側から侵食していくのを、じっと見ていてあげる。






「し、しばし、待て!」






ほうら、簡単に事が動きだす。



俺に有利に、全ての物事が俺に向かって手を差し伸べてくる。



今日、待っていたのも、


ここで待っていたのも、全て俺の策略通り。



京で後醍醐天皇に会おうとしても、警備が厳重すぎて絶対に会えない。




この移動中の山の中のほうが、会いやすい。





計画通り。





雲の切れ目から太陽が顔を出す。



雨が上がった。





土臭い匂いが、世界を満たしていた。




言われたとおり、しばらく待っている。



兵士たちはちらちらと俺を訝しげに見つめてくるのを、横目で見ていると、名和長年が戻ってきた。






「・・・この先に寺がある。そこでお会いすると。」






長年は、渋りながらもそう言った。





「ただし、両手両足は、縛らせてもらう。」






両手両足。



まるで芋虫だなと思って嘲笑った。






「・・・いいよ。それで。気のすむようにすればいい。別に俺は構わない。」






口さえ動けば、目さえ開けば、どうってことはない。



何も、怖くない。




帝さえ、怖くない。



何も。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る