第8話

「・・・嘘・・・。会った・・・の?私も会いたいの。どこに?どこにいるの?!ねえ、真白・・・。」






バチっと派手な音を立てて、扇が開いた。





飛び込んでくるのはそこに描かれた桜の絵。




春の香りが、漂ってきそう。






「・・・余計なことは、見なくていいって言っただろ?」







扇の向こうで、真白くんがそう言った。



桜の絵しか目に入って来なくて、どんな表情をしているかわからない。




わからないけれど、でもそれだけで駄目だと知る。





真白くんは大和との事を、私に話すつもりはないのだと、知る。





「・・・う、ん。」





この、有無を言わさない絶対的な感覚。



もう、真白くんは私が簡単に抑えつけられるような人ではない。





出会った頃とは大違い。






あの頃は、私が護ってあげなきゃなんて感じたほど幼かったけれど、今はもう違う。







桜が崩れて、扇が閉じる。



その向こうに、真白くんが見える。





丹精な顔立ちは、すでに一人の男の人。








「もう、何も考えなくていいよ。ただこの手の内に居て。」








ただ柔く日々を過ごして。



その手に、護られて。






うん、とは容易く頷けない。






ただ、世界が涙で滲みそうになるのを、じっと真白くんを見つめて堪える。




真白くんはそんな私を見て、ふっと笑った。




春の風が吹いたように、一瞬で凍りついた世界が動きだす。







「大塔宮様が御戻りになるまでは、この手の内に。」








言い直す。



そっと微笑んで。





泣きだしそう、と思った。




私も、真白くんも。






「・・・あり・・・がとう。」






ようやく、頷ける。




そうやって距離を保たないと、いつか本当にその手の内に堕ちてしまいそうだと馬鹿なことを思ったから。

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