この手の内に。

第6話

ゆらゆらと、のんびり揺れる世界をぼんやり見つめる。






ほんの数センチ開いた小窓から見える整然とした世界は、何だか現実味がなかった。



その窓のことを物見――ものみ、と言うんだと真白くんが教えてくれたのを、頭の端で思い出しながらゆるゆると移り変わる景色を見つめていた。





「もうすぐ着くよ。」






向かいに座っていた真白くんが呟く。


小さく、頷いた。





私が乗っているのは、牛の引く車。





京の外れまで行くと、真白くんが元々手配していたのか、そんなものが待っていた。




牛車――ぎっしゃ、と言うらしい。




馬ではなく牛が引いているせいか、馬よりも揺れが少ない。




身重の私にはとてもありがたいけれど、余りにものんびりすぎて、飽きると言えば飽きる。




でもこののんびりと言うか、呑気さが、戦場とはかけ離れている。





『京の都』






雅やかで、華やかな都と言えば、まさにこんなゆっくりとした空気が流れる感じ。







開けた平野にあるせいか、解放的。



電信柱も電線もない空は、息をするのも容易い。





けれど。





「・・・戦、結構酷かったのね。」






遠くから見ると全くわからなかったけれど、町中を見ているとすぐにわかる。



壊れた塀や武器が道端に転がっている。





少し、風の中に血の匂いが混じっているような気がする。





揺れる景色の中で、あ、と思う。






人が、死んでいる。




道端に、無造作に転がっている。






すうっと、力が抜けそうになる。







その瞬間、たんっと物見の窓が閉まった。




自分の顔のすぐ横で、長い指が窓を押さえつけているのを見る。







心臓が、跳ね上がった。



反射的に上げた瞳に、すぐ傍にいる真白くんが飛び込んでくる。





後ろから、抱きしめられるような形になっていることに気づく。





ほんの少し首を傾げれば、


ほんの少し揺れに任せて体を崩せば、




簡単に触れられる距離。





けれど、越えられないただ一線。





息を詰める。






息をすることですら、まるで禁忌。

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