第32話

「真白っっ!!!」







ただその名を呼んだ。


そいつは驚いた顔をして振り返った。





なんで俺がここまでしてるんだ。






「手を伸ばせっ!!」






わけがわからないと言うように、そいつは俺の声に従って手を伸ばす。






駆け抜ける。





その瞬間に俺も手を伸ばしてその手を取った。





ガクンと肩が抜けそうになる。


思いきり足に力を込めて落馬しないように堪える。





ああ、もう、本当にくだらない。






「お前っ・・・。」




「黙ってろ!舌噛むぞっ!!」






そのまま、さらに馬の腹を蹴って加速させる。




その時に片足だけ足を掛けるあぶみから自分の足を外した。



真白は鞍に手を掛け、あぶみに片足を掛ける。



上手いこと馬に二人乗りして、駆け抜ける。





どんどん追手から遠くなる。







「・・・お前、俺の一番嫌いなヤツに似てる。」








風が唸る中で真白はそう言った。



それが誰かなんて、さして興味もない。





俺は何も答えることなく、馬を伊勢の山の中へ向けた。

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