第31話

もう一度修羅になろうとした時に抑え込まれたせいで、理性が戻ってくるまでに少し間があった。



その間に、その狼に連れられて店の裏の戸口から駆けだす。





一緒に行くつもりなんかじゃなかった。






けれど抗えない。







「待てこのやろうっっ!!!」





わらわらとまだ追ってくるヤツらを目の端に映す。





駄目だ。


向こうの人数が多すぎる。




逃げ切るのも危うい。







「法師さま!ここは俺が食い止めるから!早く!」







女顔はそう言って、突然踵を返して立ち止まった。





一人で?


あいつ、バカだ。




でも本当にあの法師を逃がしたいというのなら、それが最良だろう。






「真白!!やめろ!いいから共に来いっ!!真白っ!!」






「法師さま!お早く!!」







お供に腕を掴まれて、引きずられるように狼は連れて行かれる。






「真白っっ!!!私はもうこんなことで誰かを失うのは嫌なのだっ!!!来い!!」






どういうわけか、その叫び声は悲痛だった。





くそ。





くそっ!!





気づけば俺は彼らとは別方向へ走っていた。






「太一っ?!」






狼の声が、俺の背にかかる。



「法師様!お早くっ!!」





「太一!真白!!」






全力を出すつもりじゃない。



けれどもう暑さすら感じない。





柵を飛び越えて、そのまま繋いでいた自分の馬に飛び乗る。




一度馬は驚いて抗ったけれど、手綱を引いて抑え込む。






あいつとは、一度殴りあわなければ。



このままじゃ、俺は腰ぬけのまま終わる。







「太一っ!!」







遠くから俺を呼ぶ狼の声がする。


飛んでくる矢も、どうでもいい。





くだらない。

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