第30話

「死ねっっ!!」






突然躍り出てきた男を見据える。



覚悟はきまってる。





じりっと両足に力を込める。




床に零れた生暖かい赤が、足先を舐めて一瞬滑って惑う。




汗が、散ったのを見た。


ヒヤリと、背筋が凍る。




惑ったけれど、そのまま棒を突き出す。





若干無駄な動きが入ったせいか、相手は俺の動きが読めず、微動だにすることもないまま、その面に綺麗に一本入ってその場に崩れ落ちた。







俺の荒い呼吸音だけが、耳元で鳴る。


辺りはまだ乱闘が続いていて、騒がしいはずなのに。




また次の男が俺に向って剣を振り降ろす。




後はもう本能。





相手の動きが遅い。


俺が速いのかもしれない。





理性のタガが外れてしまえば、俺が上。





足をさばいて、その懐に潜り込む。




一歩、二歩。





そのまま今度はそのみぞおちに一打。






また俺に向ってきた別の男も、同じように打ちのめす。




気づけばもう、立っているのは俺と、狼の仲間だけ。







鉄の匂いとその赤が、世界に充満している。







上がった息を、飲みこんで制する。



本能も理性で制するように、呼吸と共に鍵をかける。





「いたぞっ!!お、お前ら!!!」






静まった世界に、再び騒音が舞い込む。


まだ仲間がいたのか。




キリがない。






「逃げるぞ。」






その言葉とともに襟首を掴まれて引かれた。

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