第28話

「ほ、法師さま。お知り合いで?」




傍にいた、40過ぎ位の男が、俺とその男を交互に見ながら声を上げる。




狼はただ呆然と俺を見ていた。







「い、いや、違う。何でもないのだ。ありえぬ。」








そう言って、そいつは俺から目をそむけた。




法師ってことは、僧侶か。


着ているものは確かにそうだけれど、絶対に違う。





纏うオーラがただの寺の坊さんには思えない。






「お前の名は?」






もう一度遠慮がちにその目が戻ってきて、そいつはそう言った。






「た、太一。」







思わずそう言ってしまった。


本当の名を隠して。




なぜそうしたのかわからないけれど、なぜか本名は名乗れなかった。




とっさに太一兄ちゃんの名を名乗ってしまった。






「・・・そうか。名字はなんと言うのだ。」






ただそれだけ言って、黙った。




なぜ名字までと思ったが、桜井と言おうとした時に、世界は砕けた。








「お命、頂戴する!!!」









その声が背後から襲いかかり、一瞬にして空気が張り詰める。





銀が舞ったと思った瞬間、その銀は別の銀で受け止められて固まった。

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