第二章 銀鼠

偶然

第26話

■■■■







そっと手の甲で頬から顎にかけて流れる汗を拭う。


初夏の日差しに反射して、煌いて散った。






「あっつい!!暑い暑い暑いっ!!俺、暑いの苦手だって知ってるでしょ?!」





「知ってるでしょって言われても・・・。」






伊勢神宮まで伸びる参道にある茶屋の一軒を覗くと、店内は賑わっていた。



店内には20人ほどいる。


日差しが強すぎて、皆涼んでいるんだろう。




俺も同じで、もう少し先まで行きたかったけれど、乗っていた馬がバテてきたのと、俺自身もバテてきたからここらへんで休むことにした。






「水一杯ほしいんだけど。」



のれんをくぐってすぐに駆け寄ってきた、茶屋の店員にそう告げる。



「へえ。他には何か?」



「冷たいものならなんでもいい。」




「ではわらびもちでもご用意致します。どうぞお掛けになってくださいね。」





促されて座る。




ようやく日陰に入れてほっとする。



店員はすぐに水を持ってきた。


それを浴びるように一気に飲み干す。






「あ~もう!死んじゃうよ!!」





さっきからなんだあいつ、大声で。


暑い暑いって、夏なんだから暑いに決まってる。



暑さとその騒ぎに眉をしかめてそいつを睨みつける。




それに気づいて、そいつも睨みつけてきた。





「・・・なんだよ。お前。」





イライラと、そいつは言葉を吐く。


驚くほど白い肌と、女みたいに綺麗な顔立ちをしている。




年は多分俺と同じくらい。






「・・・夏は暑いに決まってるだろ。それにうるさい。」





「なんだって?!!」





ガタガタっと乱暴な音を立てて、そいつは立ち上がった。



俺もつられて立ち上がる。






「やるのか?!お前!!」




「あんたみたいな女顔に負ける気がしないし。」





そう言った瞬間、胸倉を掴まれる。







「お前・・・今言っちゃいけないこと言ったね。」






「だって事実。」





負ける気がしない。


こんな女顔のやつになんか。





「お前っっ!!!」






「真白。」






低い声で、その手がぴたりと止まる。





たった3文字、まるで呪文。

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