第9話

「へえ。お前、月子って言うの。俺、左虎。左の虎って書いて、左虎。殿の左腕とは俺のことだしな。って、おい、そんなに誉めるなよっ!」




そう言って、その人は豪快に笑った。


一度たりとも誉めてなんてない。





「月子殿。私は東湖ですよ。東の湖と書いて東湖です。そう、まるで貴女のうるんだその大きな瞳と同じ光を湛えた、美しい湖からその名をいただきました。」





この人たち、黙っていればいい男だと思うのに。






それよりもかなりうるさい。



さっきから、2人はひっきりなしに話しかけてくるし、楠木さんと一緒にいたときよりも1000倍疲れる。





話が噛み合えばまだいいと思うけれど、




左虎くんは見当違いな答えを返すし、


東湖さんは口説くことしか頭にないらしい。






「ふ、二人は、仲がいいのね。」





とりあえずそう言ってみると、2人は顔を見合わせた。





「・・・不本意ですがね。腐れ縁というやつですよ。」



「仲?良くねえよ!こいつ女の尻ばっかり追いかけてるしな!河内でこいつの手がついてない女はほとんどいないくらいだし。」





左虎くんはゲラゲラと笑って言った。




な、なんていうエロ男!!





思わず目を見張ると、東湖さんが「違います。」と抗った。





「そんなわけがありますまい。河内どころか、近畿一帯食べつくしました。」





にやりと私を見て不敵に笑う。






こ、こ、こ、この最低男っ!!!






わなわなと震える拳を握り締める。


ちょっと顔立ちが綺麗だからって、最低の女の敵!




「月子も時間の問題だな~。」



「あんたねっ!!」




バカを言わないでくれと叫びたい。





「恥ずかしがらなくてもいいのですよ?そっとまぶたを閉じてごらんなさい。一瞬で素敵な国へ誘って差し上げますから。」





そっとその手が私の肩を滑る。


悪寒が背筋を走った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る