第2話

「宮様があんたに執着しているのは、皆知ってる。」






楠木さんが突然言った言葉に、思わず恥ずかしくなってくる。




「な、な、何を突然・・・」




「しかも政略ではなく、想いあってのこと。」




「わ、悪かったわね!」




そんなに、真顔で言わないでほしい。



じわじわと、照れくささが指先から心臓へ駆けあがってくるかのよう。






「あんたの代わりは誰もできないのさ。」






そう言って、楠木さんは一度にっこり微笑む。



私の代わりは誰にもできない?





「宮様の心からあんたが離れるまで、あんたの代わりは誰にもできないねぇ。」




「宮様の心が私から離れるまでって、ちょっとやめてよ縁起でもない。」





思わず本気でそう言うと、楠木さんは笑った。





「まあまあ例えさ。とりあえず、『雛鶴姫』の代わりは誰にもできないことがわかればいい。宮さまがここまで女に惚れ込むのも初めて。惚れ込むどころかまるで魂の片割れ。それはつまりここで『雛鶴姫』が死んだら、宮様も崩れる。わかるな?」




わかる。



彼の御寵姫である『雛鶴』が死んだら、彼が惑う。





彼は、私のことを深く愛してくれているから。





一瞬の揺れが、全ての崩壊につながることだってある。



楠木さんはそれが怖いと言っているんだろう。




それに私は勝手に十津川を出て、河内に向かっている。






『雛鶴』は十津川にいたほうがいい。







「わかるわ。私は当分その名を捨てる。それでいいわね。」




「いいさ。絶対に名乗るなよ?」





大きく頷く。




まだ河内は遠い。



越えても越えても果て無しの山脈が続く。


遠くを見ても吐き気のする緑、緑。


まるで地獄。

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