第34話
「お前は嘘を吐いていないな」
突然そんな言葉が降ってきて、目を見張る。
「何よ、突然。」
「今着させてみて、思った。着物の着方を、知っていて知らないふりをしているわけでもないとな。どうもヒナが着ているものと私が着ているものは全く違う形状をしている。それが普段着ならば、本気で着物の着方を知らないかもしれぬと思ったが・・・」
「だから言ったじゃないの。嘘なんか吐いてないわよ」
ぜいぜいと荒い息の下で言葉を落とす。
「私が呼んだというのも本当か?」
そう言われて、彼を睨みつけるように見つめる。
「本当。私がその手と声を間違えるわけがないもの」
間違えるわけがないと、言い切った自分にどういうわけかドキっとする。
彼は小さく頷いた。
「わかった。お前が未来から来たというのは信じる。それに私が関わっているかどうかは、少し考えてみよう。取り合えず、ヒナの帰る方法とやらを模索してみることにする」
その言葉に、世界が開けたかのよう。
眩しい光が、差し込んでくる。
「ほ、本当?!!本当に?!!ありがとう!!ありがとう!!!お願いします!!本当にありがとう!!」
跳ねるように飛び起きて、彼の手を掴む。
ぶんぶん振って、叫んだ。
希望が、見えた。
本当によかった。
また泣き出しそうになって堪える。
帰れる、と思ったら、もう嬉しくてどうしようもなくなってしまった。
そんな私を見て、彼も笑う。
けれど、その微笑みは、あの時見た微笑みと同じ。
腹黒いものを感じる、不敵な、微笑み。
「それには私をここに留まらせなければならない。言っていることがわかる、な?」
嬉しさが、津波の前のように一気に引いていく。
「と、留まる?」
「ああ。私たちはここに半年か一年ほどは居たい。その画策に、ヒナも協力しろ、と言っているのだ」
二面性?
なんだろう、この黒と、微笑んだ時の白。
ギャップがありすぎて、どう反応していいか困ってしまう。
足して2で割れば、きっと灰白になる。
まだ白のほうが強いから。
そんな気がした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます