第32話

「着せてみろ」





その声と共に、彼が着ていた最後の一枚の着物がすとんと音を立てて落ちる。




はっとして息を飲む。



ばっと持っていた着物を広げて、余り見ないようにする。




自分の顔が一瞬で火照ったのがわかった。






案の定、ふんどし!!




わかっていたけどさ!!!!






泣き出したい気持ちが津波のように襲ってきたが、付けているだけマシだろうと思って自分の気持ちに折り合いをつける。




服屋の店員さんが、ジャケットを試着する時に着せてくれるように、腕を通して、そのまま上まで持って行く。





ああ、もう!!




今度は鼻血が出そうになって、また目を逸らす。






この人、なんていい体してるんだろう。


筋肉のラインが、滑らかな肌が、胸の奥をかき乱す。




けれど・・・





「貴方、ここどうしたの?」






滑らかな肌の先、肩の付け根に、切り傷のような跡が残っている。




まだ最近付いたような傷。




治っているのだけれど、少し痛そう。


思わず触れて、しまったと思う。




彼は特に動じずに、少しだけ振り返って私を見る。





「大したことではない」





それだけ言って、微笑んだ。





「大したことよ。気をつけなさいよ」





「それよりも早く着せてくれ。寒い」





「あ、ご、ごめんなさい」






冬の朝に素っ裸は確かに寒い。


私は急いで次の作業にうつった。

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