第30話

鳥の声が、いつもよりも沢山聞こえる。






ああ、お弁当作らないと。



今何時?



どういうわけか、ものすごく体中が痛い。


固い床の上で寝た時みたい。





あれ?


私、抱き枕買ったかしら?





買って正解だった。


ものすごく気持ちがいい。





あったかくて、抱きつくにはちょうどよくて。





それより、今何時?




しまった二度寝しちゃった!



お弁当を作る時間がない!!!




ひやひやと、頭に疾風のようにつめたい血液が駆け上がる。



その痛みで一気に目が覚める。





瞳を思い切り開くと、目の前に、顔があった。






その二つの目はじっと私を見ていた。





私と目があっても、一度も揺るがない。


唇はぎゅっと真一文字に引き結ばれ、眉はほんの少し歪んでいた。





この人誰だっけ?





私、こんなかっこいい、素敵な人とお知り合いなんかじゃない。



夢のまた夢だ。





ああ、そうだ、夢だ。





その肩まで伸びた長い髪が、はらはらと散る。



少し茶色。




瞳も同じ色をしている。





うん。夢だ。





でもどこからどこから夢?



もう一度寝れば、今度こそ起きられるかな。




それより寒い。


上に何かかかっているけれど、それでも寒い。




そんなことないか。




私この人を抱き枕代わりにしてるし。


足まで引っ掛けて、私本当にはしたないなあ。




まあいいか。




温かいし、


いい夢見てるんだからこれくらい。



これくらい・・・







「お前、寝相が悪いな」







今度こそ、思考回路が停止する。


停止してもう片っ端から全てが崩壊する。




「よだれが垂れたぞ?それに・・・」





すうっと、膝から太ももにかけて冷たさが走る。


背筋をゾクゾクと悪寒が走る。






「ひゃあぁああっっ!!!」






思わずおかしな声を上げる。



なんでこの人こんなに指が冷たいのよ!!!

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