第28話

「だから、帰してよ・・・。貴方が私を呼んだじゃないの・・・帰してよ・・・」





涙が、ボロボロと散って行く。


床に散って、ぱたぱたと音を立てる。







「私はお前を呼んでいない」







はっきりと、彼は言った。


その言葉に目の前が真っ暗になる。





「よ、んだじゃないの!私のこと!私のことを呼んだじゃないの!この手!その声!間違えるはずなんてない!!」




「呼んでいない」






「呼んだ!!呼んだんだから、元の時代に返す術も知ってるでしょ?!教えなさいよ!!!!」





一歩も引こうとしない私に、彼は困ったように瞳を歪める。



一度私から瞳を外して、そうしてまた私を見た。





「・・・強情な女だな。私は呼んでなどいない。それにどういうことだ。『元の時代に』とは」






若干諦めたように言った。


それを見て、苛立ちが隠しきれなくなってしまう。






「元の時代よ!!少なくとも私は、ここよりももっと先の時代、未来から来たのよ!貴方に強引に連れてかれたの!!!」





思い切り、彼の眉が歪んだ。


私のこと、露骨に疑っている。





「未来?ここよりも?」




「そうよ!ずっと先!百年、二百年、千年先!!!」





取り合えず、ここが何時代かなんて、全くわからなかったからそう叫んだ。






「・・・信じられぬ」





「私だって信じられない」






涙が止まらない。



ずくずくと、やるせなさばかり胸の内に広がっていく。






「お父さんにも、兄弟にももう二度と会えなかったらどうしてくれるのよ・・・」







不安が、染み出してしまう。


抗って、八つ当たりしてしまう。





「泣くな」





そっとその指が私の頬に滑る。


涙が、彼の指を伝って散る。






「貴方が呼んだのよ・・・『ヒナ』って、私のこと・・・誰も私のことを『ヒナ』って呼ぶ人はいないのに・・・貴方が」






貴方が。




困ったように彼は瞳を歪めた。

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