第9話

「鶴岡八幡宮って知ってるかい?」





「知らない」



素っ気無く言うと、お父さんは泣き出しそうになった。




「お父さん色々と千鶴子に教えただろう~?」



「私の日本史の成績わかってて言ってるの?」




お父さんは途端に項垂れた。




「知ってるよ。源頼朝が建てたんだろ?」




大和がフォローすると、お父さんは瞳をキラキラと輝かせた。




「誰それ?みなもとのよりとも?」



「よりとも~!俺と名前似てる!『よりと』と、『よりとも』って」



頼人がケラケラと笑いながら参道を駆けていく。



「頼人!前見て走りなさい!」




「鎌倉幕府開いた人。千鶴子本当に歴史苦手だよな」




太一兄ちゃんが、バカにするように笑った。



「頼朝さんよりも義経さんのほうが知ってるもん。私だってそれ位知ってるよ」



抗ったけれど、歴史が苦手なのはもう抗いようの無い真実。




「史学科の大学教授を父に持つって言うのになあ」




お父さんは歴史を研究しているのだ。


確か専攻は・・・その時代よりも少し後だったような気がする。





「いいじゃないの、別に」





歴史なんて知らなくたって生活できる。


それに歴史が好き!なんて友達の前で言ったら白い目で見られると思う。


乙女が歴史、歴史言うのも変。



それにさして興味もないのが現状。





「あれ?こっちが本宮だろ?」




参道から突然曲がったお父さんに、大和は驚いたように声を上げた。


確かに、朱塗りの大きな建物は参道をずっとまっすぐ行ったところにある。




「鶴岡八幡宮は帰りに参拝しよう。それより先に、ご飯だな。帰りもここを通るから大丈夫だよ」




お父さんはにっこり笑う。


大和は名残惜しそうに、私たちの後を追って来た。




大和は歴史が好きなのだ。




お父さんに似て。




歴史のテストで大和が90点以下を取っているのを見たことがない。


この間の全国模試でも、日本史だけずば抜けてよかった。


それこそ、五本の指に入るくらいだったと思う。




時折お父さんよりも詳しいことを言ったりしている。


書斎に入り浸って、ミミズが這ったような文字ばっかり読んでいる。




将来はお父さんみたいになるのかしら。




そう思って少し笑う。


性格まで似てほしくはないけれど。

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