第2話 街での生活
別れの挨拶を交わし、勇者パーティーは解散した。
メンバーがそれぞれの道へと進み出す中で、俺はリーシェが言った自由の意味を考えた。
どこに行こうとも何をしようとも、俺の望むまま。
つまり未来は自分で決めろということだ。
とりあえず生活の基盤を整えるため、住むところを探した。
そこで思い出したのが、旅の最中に立ち寄ったセスタという名の町だった。
王都からさほど離れてはなく、それほど大きくはない穏やかな雰囲気の町。そこには持ち主のいなくなった小屋が売り出されており、リーシェがソフィアに旅が終わったら一緒に住もうと冗談を言っていた。
幸いにも手持ちの金は多い。魔王討伐の報酬として与えられた金貨の数は、小屋を買ったとしても余りあるほどだった。
他に思いつく行き先もなかったので、俺はセスタに向かった。
小屋を購入し、最低限は暮らせる程度の生活品を集めた。
しばらくは何もせず、ぼんやりと日々を過ごした。
朝に起きて、食事を摂って、夜に寝る。やりたいことはなく、呼吸するだけの毎日。
ただ生きているだけでも金は減っていく。
収入源はあったほうがいいだろうと思い、何でも屋を始めた。
住民の困ったことを解決する。依頼が何であれ、俺にできることならば忠実にこなした。
壊れた屋根の修理、脱走した猫の捕獲、庭の草むしり。ほとんど雑用のような依頼ばかりだったが、達成後の依頼人が喜ぶ顔を見れば、それも悪くないと思えた。
そうして何でもない毎日を過ごす中で、いつの間にか一年が経っていた。
相変わらず人生の目標はなく、淡々と日々を繰り返す。
たまに、旅をしていた頃の夢を見る。
その時の俺はリーシェに引っ張られながら、ユリウスとソフィアに支えられ、ぎこちなく歩いていた。一歩進むたびに、見たことのない景色を見て、知らないことを知った。ぎこちなくとも、前に進んでいたのだ。
たけど今はリーシェたちと離れて、停滞している。
先に進むべきかどうかも分からない。
俺は、いつも分からないことだらけだった。
血に濡れた短剣の重さを知り、涙を浮かべて俺を睨む少女の前から逃げ出したあの夜と、何も変わっていない。
朝日の眩しさで目を覚ます。
見慣れた天井を眺めて、一日の始まりを実感する。
今日も依頼があるかもしれない。
早いうちに起きて、仕事の準備をしよう。
寝床を出て、適当に作ったもので朝食を済ませた。
小屋の前に設置されているポストを見る。
依頼書が一枚だけ入っていた。取り出して確認する。
「孤児院のシスターからか」
一人のシスターが運営する、小さな規模の孤児院。
今日はその孤児院から依頼が届いていた。
白い紙に書かれた達筆な字を読む。
どうやら明日の早朝、シスターが用事で町を離れるらしい。
期間は一日。その間、子供たちの面倒を見てほしいとのことだ。
「あのシスターには、俺が子供の相手をするようなやつに見えていたのか」
シスターとは面識がある。
孤児院の前を通りかかった時に、何度か話しかけられた。
長い金髪の、ふわふわした印象を持つ女性。
年齢不詳で、未熟な少女にも妙齢な女性にも見える、不思議な人だ。
子供の相手をするのは慣れていないが……まあ、仕事に文句をつけてもしょうがない。苦手でも何でも、報酬を得るためならばやるしかない。
シスターの依頼を受けることにした。
彼女が孤児院をあけるのは、明日の早朝から。
依頼の受諾を知らせに、さっそく孤児院に行こう。
ついでに仏頂面の俺が子供たちに受け入れられるかどうかも今日のうちに確かめておく。もし子供たちがこんなやつと一緒にいるのは嫌だと言ったら、大人しく身を引くしかない。
身なりを整え、孤児院のあるほうへ足を進めた。
元勇者パーティーメンバーの暗殺者は好きに生きたい 夜見真音 @yomi_mane
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