第32話

「あの寝てるの、陸くん、だよね?」




ごろん、としている陸を、我ながら優しい視線で見つめていると、後ろから控えめに陸を呼ぶ声がする。



あまりにも柔らかい声は、春風に飛ばされてしまいそうで。



寝転がっている陸よりも、はっと私が先にそちらを振り向くと、その人は小さく私に会釈する。




「あ、マネージャーだ、どうかした?」


「先生が呼んでる」


「あ、まじか。ありがと、今行く」




さっき呼んでも、意地でも起きなかったのに、むくりと起きた陸は、するり、私の髪を撫ぜて。




「じゃ、いってくるから。お弁当ありがと」


「うん、いってらっしゃい、頑張ってね」




いつの間にか脱いでいたらしいスパイクを履き直し、陸はマネージャーさんとグラウンドのほうに歩いていく。



すらっとしてて、見た目は大人っぽいのに、綿毛のようにふわふわとした可愛い声で、『陸くん』と呼ぶ彼女。




少しだけ寂しげな微笑みで私を見て、嬉しそうに陸と並んで歩く彼女に感じた、この予感は本物だろうか。

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