第30話

陸に渡す!って、すっごく気合入れてお弁当作ったのに、肝心の陸の好物である玉子焼きを失敗しちゃって、しかも家にそれ以上卵が無くて作り直せなくて。



泣きそうになるくらいショックだったのを、いまでも覚えてる。




「別にあれくらい問題ないだろ、普通に香ばしくて美味しかったけど」


「でも陸、お母さんが作ったときみたいに美味しいって言ってくれなかった!」


「あー、俺ができなくて、紗葉にできるものができたのが悔しくて」


「はあ?なにそれ!私だって陸に負けてばっかりじゃないもん!」




数年越しに聞かされた陸の本音に、心臓が控えめに、でも確実に拍動のテンポを速めていく。




「ごめんって。美味しかった。また今度作って」




そしてまたいつものように、私の髪を優しく撫でて、ご機嫌取りをする陸が、どうしようもなく好きで、恨めしくて、好きで。




「報酬は?」


「朝、起こしてやってるだろ?」


「……いいでしょう」




私の大好きなミニトマトを、食べやすいようにちゃんとヘタを取って渡してくるあたり、本当にこの人には敵わない。



なにもかも知られていて、時々操られているような気分になる。



陸は、私の想いに気づいてるのかもしれない。



もし、陸が先輩じゃなかったら。

もし、私が後輩じゃなかったら。



きっと、こんな風に、お互いを知り尽くして兄妹みたいな関係になる前に、何かが変わってたと思うのは、甘えなのかな。

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