第33話

「ああ」




と、私が知っているいつもの律よりも数倍素っ気ない挨拶をする律。


不思議に思って、律の横顔を後ろから見つめてみるけれど、律は当然、私を見ることはない。




「す、すみません!永藤先輩とご一緒だったんですねっ、」




大きな律の身体に隠れていたらしい私を見つけて、その子はとても驚き怯えたように律にそう告げる。




どうしてこの子が私の名前を知っているのかがとても気になった。花姫になりたい、と願ったいま、周りからの評価が気になっているからかもしれない。




でも、今の怯えたような彼女を引き留めるほど、無慈悲にはなれなくて、その後姿をただただ見つめていた。





教室に着くと、律が扉を開け、私の背中に自然と手を添えて促す。教室に入ると、ぱしゃり、印象的なシャッターの音が天井に響いた。




「え…?」




突然に朝の教室に響いた機械的なその音に、私は驚きその音が聴こえた方向へと視線を向ける。



そのカメラを見つけると、視線を逸らす間もなくもういちどシャッターが切られて。朝陽とは程遠い、人工的な光が目に飛び込んだ。




「ちょっと!いきなり写真を撮るなんて常識的におかしいんじゃない?」




一眼レフのカメラを持つ男子生徒を無理矢理押しのけて、というか突き倒して、私に笑顔を向けてくれた親友が私に安堵をもたらす。

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