第32話

学校に近づくにつれて、黒塗りの車の列が見えてきて。

私はその横を歩いて、スタスタ、と歩いて通り過ぎる。




もうすぐ校門に着くんだから、皆歩けばいいのに。



どうにもこの人たちは、黒塗りの車で校門をくぐらないと気が済まないようなのだ。




「しーいちゃん」


「、っ、びっくりしたー」




後ろから私を抱き締めるようにしながら、誰かが私の名前を呼ぶ。いや、こんなことするのはアイツだけだけれど。




「律、離れてよ」


「やだって言ったら?」


「朝から困らせないで」




無駄に綺麗な顔と、親しみやすい軽い雰囲気、反対に重厚とも表現できるような素晴らしい家柄。




間違いなく律は、今この学校でいちばん"有益な"男だろう。このプライドの渦巻く学園でいちばんの。"有益さ"はすなわち人気へと直結する。




周りの視線が、痛すぎて。取り敢えず離れて、と言うと、律はやけにあっさりと私を解放した。




同じクラスだし一緒に歩くくらいは仕方ないか、と律と一緒に教室へと向かう。その間にも律は女子学生の視線を奪っていて、とてつもなく居心地が悪い。




「律先輩…っ、おはようございます!」




突進するように走ってきた、後輩らしき女の子。

頬は赤く、明らかに律に好意を持っているのが、恋をしたことがない私にでも分かる。

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