第30話

「ねえ、コウくん?」


「ん?」


「私もね、コウくんよりイイ男に会ったことないよ」




これは、本音だ。容姿は芸能人にも全く劣らないのに芸能人とは違って本物の富裕層限定の、言わば勝者のオーラを纏うコウくん。



スマートな物腰に、ときどきの分かりづらい優しさ。



容姿だけではなく、全力でイイ男なんだ。

おとぎの世界の中の、王子様のように。




私の言葉に、コウくんは初めは面食らったような顔をしていたけれど。女子高生の癖に生意気、と笑って。




「当たり前だろ?いたら連れてこいっつーの」




そしてまた、ワインを煽った。





花姫を目指してみたい、と言えたおかげか、目覚まし時計よりも早く朝を迎えた私は、いつもよりも念入りに身嗜みを整えていた。




お気に入りのバニリンの香りのボディクリームを、マッサージを兼ねつつ身体に塗り込む。



少しはっきりとさせた目元に、グロスで艶を出した唇。ハーフアップにした髪には、ネイビーのコームを仕上げにセットして。




「紫花なんか今日雰囲気違う」


「花姫になるために、突然だけど気合入れてみた」


「そんなんしなくても大丈夫だって」




今日からお仕事らしいコウくんは、仕立ての良い細身のスーツを身につけ、髪の毛もきちんとセットしていて、なんていうか、隙がない。

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