第8話
喪服を着ているということは、お葬式に出てくれていたのだろう。
ただ、おばあちゃんの顔を忘れないようにと目を瞑り、おばあちゃんの笑顔を必死に脳内で反芻していた私には見覚えがなかった。
ぼー、と厚い壁を挟んでいるかのような思考のなかで、男性と親戚のおじさんおばさん夫婦が話している様子を眺めていた。
すると、すっ、と黒い影が目の前に現れて。
見上げると無表情の王子様が私を見下ろしていた。
「……?」
「泣いていいのに。泣けばいいのに」
「………涙、出ない、…です」
そう言った途端に、私は脇の下に手を入れられて抱き上げられる。背の高い王子様に子供のように抱き上げられて。
その後に、私を抱き上げたままの王子様に、ぎゅう、と抱きしめられた。
それは、もう思い出のなかでしか会えないおばあちゃんの癖で。
大きくなった私と、その反比例に老いていったおばあちゃんの間では長い間されていない行為だった。
王子様の黒い服で視界が塞がれる。目を瞑ると、葬儀の間に忘れないようにと必死に反芻したおばあちゃんの笑顔が目の裏に現れた。
温かい体温に包まれて、背中をゆるゆるとさすられて。目の淵が熱に彩られ、瞳を開けるとつかえが取れたかのように、初めて人前で涙が流れた。
「…っ」
服を汚してしまわないように、王子様の首に手を回し、身体をよじ登るように、王子様の肩の上に顔を出した。
それでも涙は流れて、服の上にぽたり、と落ち、滲んでいく。
滴が落ちないように上を向くと、片腕で頭を優しく抑えられて。
「濡らしていいから、泣いちゃえよ」
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