第31話

初めて体験する12時間のフライトは、かなり長いものであたしはふぁ~と大きな欠伸をする。




王子他、あたしの周りのメンバーは慣れっこだから、全然苦痛に感じないらしい。




「帰りは早く感じますわよ」とマミヤちゃんは笑っていた。




窓の外。綺麗だった白雲の海も次第に暗みを帯びてきて、今ではすっかり藍色の空。




雲の上から見下ろす夕陽というのも、なんとも乙なもの。




海の上を走っているのか、空を飛んでいるのかちょうど分からない時間帯。




あたしはだんだんと暗くなっていく景色を見つめながら、満腹のお腹をそそっと擦る。




機内食では本当に「Fish or meat」で、2回目の食事のとき、王子が要らないと言ったので、あたしは両方を選択してどちらも平らげた。




そうして完全に夜の気配が立ち込めた、イギリスまであと少しとなった頃、後ろの席からピエの声がした。




「マミヤマミヤ、ちょっと来て」




あたしは配られたジュースを飲みながら、その声に反応する。




充くんはずっと眠ったままで起きないし、王子は肘掛に頬杖を付いたまま洋画を見ている。




「なんですの?」




マミヤちゃんがその誘いに返事をしたのが聞こえてきて、あたしは居ても立ってもいられなくなった。




でも、隣には魔の巨壁、王子が君臨。




席を立つとなると、絶対怪しまれてしまう。




(…さっきトイレ行っちゃったし…)




何かいい言い訳がないかと考えるが、浮かんで来ない。




「いいからいいから」




そうこうしている間にピエがマミヤちゃんと連れて、席を立ってしまった。

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