第30話

化粧室に引っ張って行って、あたしはマミヤちゃんの肩を揺する。




「克穂、あたしに何したの!?」




ブンブンと前後に揺すってみても、前回マミヤちゃんにされたメトロノーム並には行かなくて、マミヤちゃんは平然とニンマリ笑う。




「…言えませんわ」




ほぅっと頬を染めて、口元で微笑しているマミヤちゃんは斜め下に視線を逸らした。




そしていつの間にかあたしの手から逃れ、天井を向いて瞳を輝かせている。




「あたくしも千亜稀ちゃんの様に愛される女性になりますわ」




力強く言葉をこぼした瞬間、あのマミヤちゃんが顔を出し始めたのであたしは唖然と口を開けた。





『マミヤ…イギリスの霧に色がついてるのなんでだと思う?』




「…え?それはスモッグに汚染されていて…」




『甘いなー、マミヤは。イギリスは試練の街。恋人の顔が見えなくても姿形だけで見極められるかって試されてるんだよ。つまり…』




「こ、恋の試練の街ですね!?」




『そう。さすがマミヤ。俺の女だ。一緒にビックベンで愛を語らい合おうじゃないか』




「み、充ぅ~!!!




 だ・な・ん・て♪…もぅっ」




そう言って頬を染め、巻かれた髪をぐるんぐるんと回しているマミヤちゃんがここにいる。




気分だけは一足先にinイギリスの女優マミヤ。




しかも今回は声色も似せて立ち位置も移動有り。




あたしは顔を背けるしか手段はない。




(マミヤちゃんの女優っぷりが強化されてるっι)




あたしは心の中でそっと悪態をついて、目の前に立つマミヤちゃんをこっそりと見つめた。




まだ自分の世界で会話を進めていて、手の施しようがない。




あたしは小さくため息をついて、到着時刻までそんなマミヤちゃんと一緒に過ごす覚悟を決めた。

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