第28話
隣の席の王子は、ヘッドフォンをつけたまま洋画に夢中だし、あたしは何だか耳が痛いし。
ピエのせいで最近よく眠れなかったりで、この微妙な揺れを見せる機内の中、あたしはうとうとと睡魔に襲われ始めていた。
あたしは窓側の席で、白い雲を眺めては欠伸を漏らす。
初めて行くイギリスの期待も胸で眠らせて、あたしはいつの間にかスヤスヤと眠りについていた。
克穂はブザーを押して、客室乗務員を呼ぶ。
美人揃いの職種だけに、呼ばれてきた相手はとても整った顔をしていた。
さっきから周りの生徒が騒いでたのは、きっとこの人が原因。
でも…
そんな相手も喰らってしまうのが、克穂の凄さ。
呼ばれてきた乗務員は、まず伏せていた克穂のまぶたにトキメいた。
「…ッお呼びでしょうか?」
「毛布を一枚」
「かしこまりました」
すっと頭を下げて一礼を見せるときに、その女は千亜稀を横目で見た。
こんな彼に気遣ってもらう相手はどんな女性だろうと横目で見ると、スヤスヤと無防備に眠る少し幼い印象の女の子、千亜稀。
少し拍子抜けしたらしく、毛布を渡されるときはさっきよりも一層笑顔だった。
毛布をかけた瞬間、後ろの席からマミヤが顔を出した。
「大切にされてますのね」
にこっと微笑むマミヤの笑顔に、克穂はめんどくさそうに顔を歪める。
「…不細工な寝顔、他に見せるわけにはいかないから」
そう言って、克穂は千亜稀の口の上まで毛布をかけた。
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