異能持ちとして生まれてしまった俺、何故か敵組織幹部との同棲生活が始まった件について〜未来予知から始まる最強ハーレム〜

餅餠

第1話はじまり

 俺、式凪しきなぎ未来みらいには未来が視える。


 これは思春期の恥ずかしい妄想だとか、俺が自分を異世界転生者だと思いこんでいる痛い奴というわけではなく、紛うことなき事実だ。

 そしてそれはすなわち、俺が『祝福持ち』であることを示す事実である。


 祝福持ち___簡単に言い換えれば超能力を持ったの人間のこと。この世界で超能力を持っている人間はそう呼ばれている。

 2030年、とある病院で生まれた赤子が『念動力サイコキネシス』を発現して以来、それを皮切りに世界では稀に異能持ちの人間が生まれるようになった。政府は俺達を神からの祝福を受けた者達として『祝福持ち』と呼ぶようになった。


 謎の存在である俺達祝福持ちの存在を公表すれば混乱が起こると考えた政府はこの事実を隠蔽し、世間に露出させることはなかった。俺達の存在は軽く都市伝説のような扱いとされている。今も俺達の力の研究は続いているのだとか。

 超能力に目覚めているとは言え、見た目はただの人間。俺もちゃんと学校に通って、バイトをして、一人暮らしをしている。俺達祝福持ちはこうして能力を隠して過ごしているのが大半だ。

 しかし、全員が俺のような健常者ではない。


『未来くん、仕事だよ。そこから一キロ先の裏路地で剣姫がご登場のようだ』


 ポケットの中で震えたスマホを手に取り、通話に出る。そこから聞き取った情報を元に俺は路地に向かって走り出す。


「俺の他には?」


『今手の空いてる人に連絡を入れてる。先に第二部隊が戦闘中だ』


 俺達祝福持ちの能力は人によって異なる。それが些細な物の場合もあるが、時に世界に牙を向く能力の場合だってある。そう言った能力を持った者が犯罪に手を染めるケースは少なくない。自分たちだけの世界を作ろうとする組織の話だってよく聞く。そういった奴らの相手をするのが俺達、『BSCI』の役目だ。


 走ること数分、目的の場所が見えてきた。人通りの少ない路地と遅い時間ということもあり、周りに人の姿は見えない。俺にとっては好都合だ。

 通学用のバッグに隠し持っていた拳銃を取り出し、慎重に踏み込んでいく。場合によっては銃弾が効かない奴もいるから気休め程度のお守りだ。


 路地裏は敵がいたと報告があったわりには静かだった。既に去った後なのだろうか、と考えている内に暗がりに横たわる人影が目に入る。慎重に近寄って見ると、仲間の一人が横たわっていた。

 すぐさま駆け寄るが、既に意識は無く、息はあるが気絶しているようだった。他にも奥に数名同じように横わたっている仲間達が視える。どうやら一足遅かったらしい。


「…遅かったか」


 誰もいない路地で一人そう呟く。投げかけたところで言葉など返ってくるはずもなく、俺の言葉は路地の湿った空気に消え入った。

 逃がしてしまったからにはとりあえず仲間達を運ばなきゃいけないのだが、一人では無理がある。救援を呼ぶしか無いか。俺は自らのポケットに手をつっこみ、スマホを取り出す。


「やっと来てくれたんだ。遅いよ」


 薄暗い路地で目を細めながら気を緩めたその時だった。背後からの声にすぐさま立ち上がり、ばっと振り返る。

 俺が銃口を定めた先には見覚えのある白髪の女。美しくなびく髪は俺に初雪を想起させる。謎の制服姿から見えるくびれのラインは妙な艶かしさを感じさせた。

 青色の俺の瞳とは対照的な紅色の瞳は月光を浴びてギラリと光る。幾度となく見てきたその瞳は獲物を捉える。好戦的な舌なめずりは俺の背筋をぞわりと震わせた。

 

 狼狽えた俺とは対象的に、彼女は気味の悪い笑みを浮かべて俺の数メートル先に立っている。その片手には今の時代には見合わない日本刀が握られている。彼女の愛刀だ。

 既に顔見知りとなっていた彼女は俺が幾度となく戦ってきた敵組織『ルーイン』の幹部である剣姫。宿敵と称するに値する人物である。


「相変わらず歯ごたえがないね。君が来てくれないと退屈だ」


 月光を刀に反射させ、余裕そうに言った剣姫からは息の乱れが感じられない。どうやらウチの奴らは彼女の息を乱すこともなくねじ伏せられてしまったようだ。

 この路地は奥の方は行き止まり。不覚ながら構図的には剣姫に追い込まれてしまった形となっている。彼女を牽制する意味も込めて俺は言葉を投げかけた。


「相変わらずしつこいな。これで何度目だ?いい加減両手じゃ数え切れなくなってきたぞ」


「ふふ、そう言って毎回会いに来てるのはそっちじゃない?」


「誰かさんが暴れ回るからだよ。こっちだってできることなら夜中のバイト帰りにお前みたいな奴の相手なんてしたくないんだ」


「私だって上の命令で暴れてるだけだし、君が大人しく負けてくれればこっちとしても楽なんだけどな〜」


 もはやこのやり取りも何回目だろうか、そのぐらいには剣姫とは幾度となく戦ってきた。彼女の手の内は知り尽くしている。だから彼女が既に戦闘態勢に入っていることも見て分かった。

 剣姫は鯉口を切ると素早く抜刀し、日本刀を顔の横に構える。俺は拳銃を構えたまま、タクティカルナイフを取り出した。

 彼女の日本刀にナイフで太刀打ちするのはかなり難しい。それもタクティカルナイフのような短いものなら尚更。だが、無いよりはマシだ。これもお守り程度ということになる。


 手に滲む汗が緊張の度合いを示している。彼女の相手はいつになっても慣れない。

 彼女もまた祝福持ち。手の内を知っているとしても、油断はならない。撃退よりも逃げることを優先するためにも退路を確保したい俺は、自らの神経を目に集中させる。そして、自分の能力である『未来視ビジョン』を発動した。


 先にも言った通り、俺の能力である未来視ビジョンは未来を見ることができる。至ってシンプルだが、強力な能力だ。

 しかし、デメリットとして未来視ビジョンは精神的消耗が激しい。一度の使用でかなりの疲労感に襲われるため、そう何回も乱発はできない。それに加えて目への負担も大きく、下手すれば視力を失いかねないのだ。なので戦闘中も仕える回数は頑張って2、3回程だ。

 数少ない一回の未来視を発動する。剣姫の始めの一手を読むつもりだった。

 俺の眼の前に広がるのは数秒後の未来。彼女は未だ構えを取ったまま、俺に語りかけてくる。


『好き。君のことが好き』


「…え」


 見えた予想外の未来に俺は思わず声を漏らす。


「好き。君のことが好き」


 そして訪れた二度目の言葉で俺の未来視が間違っていなかったことが証明された。

 驚愕で数秒の空白に苛まれていた次の瞬間、俺の体は衝撃に襲われる。距離を詰めてきた剣姫が俺を押し倒して来たのだ。

 拳銃は手から離れ、ナイフはからんからんと虚しく音を立てて遠くへと弾かれる。覆いかぶさるようにして俺の四肢を固定した彼女は勝ち誇ったような笑みを浮かべた。


「…やっぱり。君、未来が見えてるんだ」


「っ」


 確信めいた一言に俺は思わず歯噛みする。長らく俺の能力を隠すことに成功していたが、ついにバレてしまった。ここまで隠しきれていたこと自体奇跡のようなものなのだが、よりによって今バレてしまったのは痛手だ。それに加えてこの状況。我ながら敵の前で固まるなど愚かなことをしてしまった。状況を脱しようにも、武器には手が届きそうに無い。四肢も抑え込まれており、全く動く気配が無い。

 少し力を加えてしまえば折れてしまいそうな細さの腕と脚に俺は抑え込まれてしまっている。この末代までの恥になりそうなほど情けない状況をどうにかしようにも、俺に選択肢は無かった。


「くそっ、ハッタリか…」


「ふふ、どうだろうね」


「…は?」


 吐息が感じられるほどの距離まで縮まった彼女の顔が笑った。それは勝利を確信した笑みというよりも、悦に浸っているような笑みだった。


「好きってのは事実。嘘じゃないよ」


「何を言って…」


「疑ってるの?ま、仕方ないよね。いきなり言われても」


 俺がどうにか脱出しようと足掻いていると、俺の唇に柔らかい感覚が押し当てられた。急な感触に理解が追いついていなかったが、ゼロ距離まで近づいていた彼女の顔を見て、彼女に自分の唇が奪われていることに気付いた。

 離れようにも押さえつけられているため抵抗できず、俺は息苦しさを感じるまで唇を吸われる。

 彼女は俺のことなどお構いなしに俺の口内を貪ってくる。次第に俺の意識も酸素不足により遠のいていく。

 余りにも深すぎる接吻。捉えようによっては捕食されてると言っても過言ではない。

 何度も何度も俺の口内を掻き回す彼女の舌は止まる気配が無い。それでも俺は意識を手放す訳にはいかなかった。

 何度も繰り返される蹂躙に俺は息継ぎを必死で行ってなんとか意識をつなぎとめる。そんな俺を見て、剣姫の瞳が弧を描いた。


「っは、っはぁ…」


 やっとのことで剣姫の唇が俺から離れた。銀糸を口元に残した剣姫は色っぽくニヤリと笑う。

 数十秒に渡る長いキスを終えた俺の意識は朦朧としていた。乱れた呼吸が思考をかき乱して、うまく思考することができない。

 剣姫は息を切らした俺を見て悦に浸ったような笑みを浮かべた。


「…今から君のこと、私のものにしてあげる」

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