第39話 GHQ本部受付

   GHQ本部受付


 眼の前に厳めしい元第一生命ビル正門(GHQ本部)が見える。

衛視が二人、両脇に立っている。

右にMP、左に日本の警察官。

山田氏が『喫茶店の女給』の衣裳に、出前箱を右手に持って左手で『通行証』を高くかざす』。

MPの衛視は山田氏を一瞥(イチベツ)して軽く挙止の敬礼をする。

山田氏は軽く笑顔を見せてMPに、


 「ハロ~、ナイスガイ」


MPは山田氏に向かって軽くウインク。


 「ワ~オ」


日本の警察官が「違和感の眼」で山田氏を睨(ニラ)む。

山田氏がビルの中に消えて行く。


 GHQ本部内『受付』である。


山田氏が受付嬢にウインクをして軽く手を上げる。

 「ハ~イ、ヘレン!」


ヘレン、

 「ハ~イ。? イツモノ、ヨシコハ」


山田氏

 「ヨシコ? オウ、キョウハ カレシト デート。ワタシガ、ママヨ」


ヘレン、

 「ママ?」


山田氏の姿をまじまじと見るヘレン。

山田氏が受付名簿に名前と職業欄に『喫茶マロニエ・ママ』と書く。


ヘレンは山田氏の化粧をジッと見詰めて、

 「アナタ、ルージュカラー カエタラ?」


山田氏、

 「シャラップ! ヘレン」


ヘレンは呆れた顔の上目使いで山田氏を見て、

 「オウ、ノウ・・・」


山田氏は出前箱を回転させ、後ろ姿で手を振るように「通行証」を見せてエレベーターに向かう。

ヘレンはそれを見て、おでこを掻きながら俯く。


 周明氏と堀田氏が受付の前まで来る。

ヘレンに通行証を提示して、周明氏が受付名簿に会社名と名前をサインする。


ヘレンは周明氏の身なりと顔を見て、

 「Translator?」

 「Yes, He's a newspaper article. Is a marshal at home ?」

 「Yes」


周明氏は堀田氏を見て奇妙な日本語で、

 「レンラク シテオイテ ヨカッタデスネー」


堀田氏、

 「ミスター小川、有難う。良い取材が取れそうだ」


周明氏はヘレンに、

 「They seem able to get good coverage today.」

 「That was good.」


周明氏はヘレンに軽くウインクする。


ヘレンは両手を軽く開いて。

 「Wa~o!」


周明氏と堀田氏がエレベーターに乗り込む。

堀田氏が振り向いてヘレンにウインクする。


 杉浦氏が受付の前まで来て名簿に名前を書く。


ヘレンは杉浦氏の書いた職業と名前を見て、

 「ぺインター?」

 「ああ、イエス。ぺインターだ。司令官のポートレート画を書きに来た」

 「パスヲ、ミセテ、クダサイ」


杉浦氏は痩せた手で「通行証」をテーブルに置く。


ヘレンは通行証を見て、

 「OK! ドウゾ」


杉浦氏は通行証を手に取りヘレンにウインク。


ヘレンは顔を崩して、

 「オウ」


杉浦氏はエレベーターを待つ。


 首藤氏が堂々とした態度で、「通行証」をヘレンに見せる。


ヘレン、

 「コチラニ、ショクギョウト、ナマエヲ、ココニ」


首藤氏が達筆な字で職業と名前を書く。


 「・・・プロフェサー?」


首藤氏はぎこちなくウインクをする。


 「・・・OKプリーズ」


首藤氏と杉浦氏がエレベーターを待つ。

エレベーターが到着する。

ドアーが開く。

二人が乗り込みドアーが閉まる。


 岡田氏が正門を入って来る。

緊張した表情で周囲を見回す岡田氏。


ヘレンは急(セ)かす様に、

 「? ヘイ ユー! カモン」


岡田氏は頭を掻きながら受付に行き、「通行証」を提示する。


 「OK,ココニ、サイント、ショクギョウヲ、カイテクダサイ」


岡田氏は緊張のあまり声が上ずってしまう。

 「ハイ!」


岡田氏のサインする手が震えている。

 「・・・岡田紳士服店。岡田 滋・・・」


ヘレンがそれを見て、


 「オウ、テーラー?」


岡田氏は直立不動で、


 「はいッ! 服屋です。元帥閣下の身体の寸法を測りに参(マイ)りましたッ!」


岡田氏は思わず『敬礼』。の手を止め、ヘレンにウインク。


ヘレンはにっこりして、

 「モウ、センソウハ、オワリマシタヨ。アナタヲ、セメルヒトハ、イマセン。マーシャルガ、オマチシテイマス。ドウゾ」


岡田氏、

 「はッ! 失礼します」


岡田氏は軍隊調に踵を返し、エレベーターの前に行き、直立不動の姿勢を保つ。

岡田氏をジッと見詰め、ため息をつくヘレン。


 『GHQ本部裏門搬入口』に軍用トラックが停まる。

トラックのドアーを開けて村瀬巡査と肥田氏が出て来る。

村瀬巡査は受付に行き、MPと何か話して居る。

村瀬巡査が硬直して立っている肥田氏を見て、手招きをする。

肥田氏が急いで村瀬巡査の傍に来る。


村瀬巡査はMPに江戸弁英語で、

 「He's shop assistant furniture store.」

 「Have a pass?」


村瀬巡査は肥田氏を睨み、きつい言葉で、

 「通行証ッ!」


肥田氏、

 「あッ! こッ、これ?」


MPは肥田氏の差し出す「通行証」を見て、

 「・・・OK」


村瀬巡査と肥田氏が搬入口から貨物用のエレベーターに乗る。


貨物用エレベーター内の二人。

 「・・・英語が喋れるんですか」

 「アタボーよ。知ってる単語を並べりゃ、何とか成るもんでさー」

 「へ~」

 「あッ、八階だ。肥田さん! 後は頼んまっせッ。新聞で会いましょう」 


エレベーターのドアーが開く。


肥田氏が降りて、突然振り向き、

 「村瀬さんッ!」

 「アイヨッ!」

 「いろいろと有り難う御座いました。これ、俺の時計です。形見だと思い取っといて下さい」

 「何だよ。今生の別れでもあるまいし。まあ、時計は預かっときます。後でまた病院に返しに行きますから」


村瀬巡査はエレベーターから廊下の奥を覗く。


六人が集まって居る。

 「おお、居る居る。集まってるぞッ! 面白く成りそうだ。じゃッ、肥田さん! 頑張って行ってらっしゃい」


村瀬巡査は力一杯、肥田氏の肩を叩き、挙手の敬礼をする。


 「参 考」

ヘレン・アンドリュー(豪・キャンベラ出身・元オーストラリア軍通訳・日本兵担当)

                          つづく

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