第34話 いざ、出院!
いざ、出院!
7月7日11時25分。
松澤病院の門から「奇妙な男達」が徐々に雑貨屋の前に集まって来る。
肥田春充氏が雑貨屋のポストの前のベンチに座り、男達に目配りをする。
堀田善衛氏、杉浦誠一氏、岡田 滋氏、首藤操六氏、大川周明氏。
一人づつ雑貨屋に入って行く。
肥田氏がベンチから立ち、鍋(ナベ)を見ている周明氏に近づいて、耳元に、
「・・・山田さんは」
「・・・良い鍋(ナベ)だ・・・」
「・・・そうですねえ・・・」
周明氏はボソッと、
「朝倉と何か話しをしている」
11時30分。
周明氏が雑貨屋から「通り」に出て来る。
雑貨屋から少し離れた所に米軍の軍用トラックが停まる。
ドアーのウインドーをおろし、元気よく村瀬巡査が顔を出す。
「先生ッ! 迎えに来ましたッ!」
周明氏は右手を軽く上げトラックに近づく。
周明氏は村瀬巡査を見て、
「・・・ご苦労さまです」
周明氏は雑貨屋から顔を出した肥田氏を見て、眼で合図する。
肥田氏が軍用トラックの荷台の幌を上げて、堀田氏達に手招きする。
堀田氏、杉浦氏、岡田氏、首藤氏、の四人が店から出て、急いでトラックの荷台に乗る。
肥田氏が周囲を確認し、荷台に飛び乗る。
周明氏は五人が乗った事を確認、運転席の村瀬巡査に近付く。
「村瀬さん、少し待ってくれないか。一人遅れている」
「勘弁してくださいよ。この車、30分しか借りてないんですからね」
すると山田氏が通りを走って来る。
「待ってーッ! ゴメンナサ~イ」
肥田氏が荷台の幌(ホロ)をそっと開き、
「おいッ! 早くしろ。何をしている」
「ごめんなさ~い」
山田氏は急いでトラックにの荷台に飛び乗る。
周明氏はそれを確認し村瀬巡査を見て、
「全員揃った。お願いします!」
周明氏が急いで助手席に乗る。
「ヨッシャッ!」
村瀬巡査が軍用トラックのシフトレバーを二速に入れゆっくりと走りだす。
周明氏はトラックの助手席から村瀬巡査を見て、
「今から計画を実行に移します。大丈夫ですね」
村瀬巡査は元気良く、
「イエッサーッ! 任しといてください。アメ功の野郎、一発カマシテやる」
周明氏はハンドルを握る村瀬巡査に七人の役割表を渡す。
村瀬巡査が運転をしながら片手で役割表を見る。
村瀬巡査はほくそ笑(エ)んで、
「うん。・・・バッチリだ。こないだ、電話で先生に言われた通り、衣裳の方は伝えて有ります。これで衣裳に着替えれば本物よりホンモノだ」
「本物よりホンモノ?」
「誰が見ても判らないって事ですよ」
「・・・で、日劇の方はだいじょぶでだろうね」
「オーライッ! だいじょぶ。川口ってヤツでね、日劇の衣裳部で主任をやってます。ビルマの戦友ですよ。何でも言って下さい。ヤツも下町の空襲でカミサンを亡くしてましてね。今はシングルフアァザーです。アメ功には人一倍恨みは強い」
「シングルファザー?」
「男寡婦(オトコヤモメ)ッ! 子供が五人居るんですよ」
「五人もッ! そりゃあ大変だ」
「豆(マメ)な男だから出来るんですよ」
村瀬巡査は胸ポケットから小さく畳んだメモ紙を出し、周明氏に渡す。
「はい、これ。GHQの場所と見取り図」
周明氏はメモ紙を受け取り、開いてジッと見る。
「・・・第一生命・・・日劇・・・なるほどこの赤マルがマッカーサーの部屋か・・・」
「そうです。それと、本部の正門の衛視は、11時50分にランチタイムで交代します。昼の衛視はジミーってヤツで融通の利かないトロイ男でから」
「融通の利かない? ・・・だいじょぶだろうね」
「だいじょぶ。先生達七人の通行許可証は川口に渡してあります。ジミーは許可証オンリーですから」
つづく
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