第34話

「これ履いて」


「え、いらない」


「いいから」


「いい」


「なんでだよ」


「だって絶対おっきいもん」


「ベルト貸してやるよ」


「……」


「さすがにそんな姿見て放っておけねえの。な、お願い。俺のためにもこれ履いて」




眉を下げ、お願いをしてきた男。


……どうしてあなたがそんな顔をするんだろう。全く関係ないのに。なんなら、校舎内で変な光景を見せられて不快なはずなのに。



渋々と手を伸ばして受け取れば、「あ、そっち向いて。さすがにえろい」と壁側を指差すから、「変わんないよ」と言えば、「いいから」と肩を掴まれてぐりんと反対を向かされた。


細かいなあ、と思いながらも言われた通り壁側を向いたままズボンに足を通し、長すぎる裾を折る。




「ふは、でっか。それ手離したらやばいの?」


「うん。ずれちゃう。手離してみよっか?」


「しなくていいわ」




ん、と次に差し出されたのは、男の腰に巻かれていた黒いベルト。本当に貸してくれるみたい。

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