第33話

ぶら下がる布を拳の内側に、力を込めてぶちっと千切ると、目の前の男は「おお、ごーかい」と感嘆の声をあげた。




「なあえろいことになってるよ?」


「へーき」


「へーきって。パンツも見えてるし」


「わかってる。恥ずかしいから見ないでよ」


「いやいや、見たくなくても見えんの」


「じゃあどっか行って」


「は〜?あのね、俺が来なかったら全部やられてたよ?」


「……」


「……はあ」




はあって。溜息を吐きたいのはわたしのほうだよ。さすがにこんな姿じゃ教室まで戻れないし。



すると、目の前の男は手に持つ紙袋からごそごそとなにかを取り出した。


またハサミだったらどうしよう、って思ってしまったのはわたしだけの秘密。出てきたそれはハサミでもなんでもない。緑色の体操ズボンだった。



ちなみにわたしの通っている中学は、学年によって体操服の色が異なっている。


1年のわたしは赤。2年は青。ということはこの人は3年生、……ということになる。

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