第11話
「……まもり、てぃっしゅ」
「ん」
「……ん」
「はいはい、やれってな」
面倒くさそうにしながらも、ティッシュをわたしの鼻下にあて、ちん、と出たそれを包んでごみ箱に捨ててくれた。
涙は止まった。鼻水はずるずるしているけど、気持ちは落ち着いた。今は真守がいるから。
「ごめんね、突然泣きだして。もう大丈夫」
「大丈夫なやつは人のスーツ皺になるくらい握りしめないだろ」
「っ、」
「なにがあった?」
古びたアパートに似つかわしくない真守。胡座をかいて、正座をするわたしの顔を覗き込む。
ぱつん、と切り揃えられた眉毛すれすれの前髪は、わたしの目を隠してはくれない。
真っ直ぐにわたしを見つめる双眸に、わたしはさっきのことをぽつりぽつりと口にした。
「――え、その盗まれた大事なものって」
「うん。合ってるよ」
大事なもの。それは、わたしの大好きなおばあちゃんが、自分の病気を治すことを諦めてまで、わたしのためにと貯めてくれたお金。
ざっと150万円。正確には148万6千円。
年金暮らしのおばあちゃんは贅沢をせず、病気が悪化しても病院にすら行かず、こつこつと貯めてくれていた―――らしい。
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