第10話

……武器だ。せめてなにか、武器を持っておこう。


息を潜めて部屋を見渡せば、部屋の隅っこに立つ掃除機が目に入った。重いしあんなものを振り回せるほど力はない。でも少しでも間合いが取れるのなら。



なるべく音を立てずに歩み寄り、掃除機を入手した。その勢いで玄関へ忍び寄り、さらに踏み込み覗き穴を覗いてみる。外には誰も立っていない。慌てて立ち去ったのかな。


そんな臆病な人間であってほしい。


――そう強く願を掛け、鍵を開けた瞬間玄関扉を勢いよく外に押し出せば。





「、うわびびった。なに、どしたの慌てて。つかいたんだ。まだ帰ってきてねえのかと思っ、……ゆる?」


「ま、もり」


「顔真っ青だけど、」




掃除機が落下した。わたしの手から力が抜けたからだ。すごい音が鳴ったけどそんなの気にしていられない。


スーツ姿の真守が数メートル先で、わたしを振り返る形で立っている。


わたしの大好物を片手にぶら下げる真守は、「ゆる?」とほんの少し首を傾げてわたしの名前を呼ぶ。


こちらに近付く真守と距離が縮まるにつれ、真守が縦に横に斜めに揺らぐ。




「ひっ、ぐ、まも、っり」




ぎょっと目を開いた真守は周りを見渡してからわたしの体を引き寄せ、落ちた掃除機を回収し。


わたしを、部屋に連れ戻した。

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