第6話
仮に嫌だと拒否したとしよう。
そうしたとして、彼女は素直に立ち去ってくれるだろうか。全裸になった空音さんが、だ。
正直素直に立ち去ってくれるとは思えない。
あれこれ理由をつけて、無理矢理入ってくるのが目に見える。
「……」
私に残された選択肢というのは一つしかない。
諦める。ただそれだけ。
いくら対抗したって、反抗したって、迎える結末は変わらない。
やる意味がない。やったところでなんら変わらないからだ。無意味なものに時間を割く。それほどにバカバカしいことはないと私は思う。無駄。
私の返答を聞くことも無く彼女はお風呂場に足を踏み入れる。そして躊躇することなく、また隠すべきところも一切隠さずに、堂々と歩く。アパートのお風呂場という非常に狭い空間に二人。それでいて手やタオルで隠すべきところを隠さない。そうすると嫌でも目に入ってきてしまう。で、見ちゃいけないって意識をするせいで余計に視界に入ってくる、という悪循環が起こる。最悪だ。
私よりも身長は低い。胸も世間一般的には小さいといわれるような大きさ。所謂貧乳というやつだ。それなのに堂々としているのだから、胆力は凄いなと感心させられる。
私と比較する。
勝ってる。大きさは勝ってる。
なのに良くもまぁそこまで堂々としていられるものだ。
彼女は髪の毛をぱさっと触って、ふぅと一つ息を吐き、椅子に座る。
それからシャワーヘッドを手に取り、蛇口を捻って頭から濡らしていく。
水も滴るいい男………じゃなくて、いい女。
妖艶な雰囲気を纏っている。
特段身体に色気があるわけじゃない。なのに妖しさがある。不思議だ。まるで魔法にでもかけられたかのようだ。
じーっと見ていると、シャワーを止めて、目を合わせてくる。それからニヤニヤし始める。
少し間をあけてから、ぐぐぐと距離を詰めた。
「気になる?」
「なにがですか」
「ふふーん、女の子に言わせちゃう? それ」
やーんとかいうわざとらしいセリフを口にする。
「しょーがないなぁ。特別だぞ」
「は、はぁ……」
「おっぱい」
「……」
「気になるんでしょ。私のおっぱい」
どうだ! と言わんばかりに胸を張る。
どーんっ! という効果音が見えた気がした。
「本当はセクハラだからね。女性にこういうの言わせるのは」
見せつけてくるそっちの方が十分セクハラだろと思う。
「というか、なんでそうなっているんですか。別に気にならないですけど。お、おっぱい……」
胸って言えば良かったのに、空音さんに釣られておっぱいって言ってしまった。なぜ空音さんは恥ずかしげもなくおっぱいって言えるのだろうか。こんなにも恥ずかしいってのに。具体的には耳が真っ赤になるくらい。
「可愛い」
「うるさいです」
多分顔を赤くしている私に対しての言葉だと思う。だからさっと反抗した。
「そんな可愛い雫ちゃんに免じて、特別におっぱいを触らせてあげよう!」
どうだ、と構えてくる。
触れと言わんばかりに。
風情もなにもない。こういうのって空気感とかが大事なのかなって思うけれど。というか、魅力がない。空音さんのおっぱいを触るくらいなら自分ものを触っていた方がよほど有意義。そもそも空音さんのあってないようなものだし。
「大丈夫です。遠慮しておきます」
触る意味あまりないなって気付いて辞退する。
「減るもんじゃないし、良いよー。ほら」
「いや、その……私の胸の方が大きいですし、揉み心地も多分良いですよ。わざわざ空音さんのを触る理由――」
途中まで目線を逸らしながら、ぽつりぽつりと言葉を紡ぐ。そしてパッと顔を上げる。空音さんはすんごい顔をしていた。思わず口を止めてしまうほどの顔。
呆然とも違うし、怒りを我慢するともまた違う。悲壮感溢れるというのも少し違和感のある。形容し難い表情を浮かべていた。
「……」
空音さんは黙る。
なにも喋らない。
なんなら今泣き出しそうな雰囲気さえある。
「空音さん?」
不安になって名前を呼ぶ。
「雫ちゃん。言って良いことと悪いことがあるよ。おりゃー」
「はっ!? きゃっ!」
空音さんは私の胸を揉んできた。
身体をよじって、無理矢理手を離す。
「そんなこと言うなら揉ませろ」
「変態!」
「あっはっはっ。良いね。良いね。もっと罵ってくれ」
空音さんがぶっ壊れてしまった。
そんなぶっ壊れた空音さんは身体を洗って、湯船に入る。二人じゃあまりにも狭く、お湯は溢れてしまう。
「魅力のないおっぱいで悪かったね。そうだよ。うん、そうだよ。私のおっぱいは小さくて魅力の欠片もない残念なおっぱいだよ」
自暴自棄になっている。
私が悪かった。そこまで落ち込むとは思っていなかった。あそこまで堂々としていたからコンプレックスを抱いているとは考えもしなかったのだ。
だからその、目の前で自身のおっぱいを揉み揉みするのはやめて欲しい。なんというかすごく変な気持ちになる。
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