第7話 欠点×測定

 初めての迷宮探索から二十日ほどが経ち、あれほど満開だった桜も散ってしまったが、寂しくなった木々の枝には今や新緑が満ちている。もうすぐ春も終わろうとしていた。


 俺は、〝三身流転トリニティ〟を使って自由に性別を変更できるようになったこともあり、ユキに買い物の付き添いなどを頼まれた日以外は基本的には男で過ごすことにしていた。

 まあ、戦闘実技や迷宮探索の授業で、〝三身流転トリニティ〟使用後にそのままの性別で過ごすことも、そこそこあったりもするのだけれど。


 それと、〝三身流転トリニティ〟を何度か使用しているうちに、この魔法ギフトの弱点というか欠点というか、とある問題点が判明した。それは、〝三身流転トリニティ〟が独立した第一魔法であるが故の燃費の悪さだった。


 基本的に第一魔法と第二魔法の関係は、第一魔法を第二魔法が強化するタイプと、第一魔法が第二魔法を補助するタイプの二つになるらしい。

 例えばユキの〝溟晶の理ニクスマグナ〟と〝荒天冥簪こうてんめいしん〟は前者、高階さんの〝智慧の瞳グラウコーピス〟と〝雲鏡矛盾アイギスのたて〟は後者になる。


 ユキの場合は、〝溟晶の理ニクスマグナ〟で創り出した魔力の結晶である溟晶ニクスを〝荒天冥簪こうてんめいしん〟が増幅し強化することで、吹雪を生み出したり雷を放ったりしていた。


 高階さんの場合は、〝雲鏡矛盾アイギスのたて〟で受ける攻撃を〝智慧の瞳グラウコーピス〟で解析することで、攻撃に対応する性質を〝雲鏡矛盾アイギスのたて〟に付与しているようだ。お世話になっている同士討ちフレンドリーファイア無効も〝智慧の瞳グラウコーピス〟により味方の攻撃を判別しているからこその能力だという。


 そこで俺の〝三身流転トリニティ〟と三つの第二魔法はどうかというと、三つともにそのどちらにも当てはまらないのだ。

 〝三身流転トリニティ〟は性別を変化させるだけの魔法であり、その本質は三つに別たれた俺の魂の流転るてんを制御することにある。

 俺の魂には、三つに別たれているのにもかかわらず、一つ一つの魂それぞれに対して第二魔法の種子が付与されているらしい。

 本来、一つの魂にそれぞれの種子は一つずつ第一から第三魔法は一人一つずつであり、

 故に、魂が一つに戻ろうとするのを制御するためだけに〝三身流転トリニティ〟は存在しているともいえる。


 これの何が問題かと言うと、通常は第二魔法を介して第一魔法を強化増幅させるか、第一と第二魔法を接続した上で第一魔法が第二魔法を補助するため、本来ならば燃費の悪い第一魔法の魔力消費効率を第二魔法が大幅に軽減していることだ。

 俺の第二魔法は〝三身流転トリニティ〟と繋がってはいるが強化や増幅、補助の対象にもなっていない。つまり、俺の〝三身流転トリニティ〟の燃費の悪さは、他の魔法士の第一魔法とは比べ物にならないほどに悪いということだった。


 ちなみに、性別の変化を留めるだけや流転に身を任せるのならば魔力は殆ど消費しない。


 ということで、汎用性が高い強力な第一魔法と第二魔法ではあるが、継戦能力に問題があることがわかったのだ。

 迷宮で〝三身流転トリニティ〟を多用しながら全力で戦闘を行うと一、二戦で魔力が枯渇してしまうので、訓練を続けながら効率のいい戦い方を模索していかなければならなかった。


 迷宮といえば、先日のCランクのシャドウウルフがEランクの『迷いの森』に現れた件に関して、三日ほど迷宮を封鎖して調査を行ったそうだが特に問題はなかったようだ。

 調査の結果、迷宮外で生まれた野良のシャドウウルフが『迷いの森』に偶々迷い込んだということらしい。

 その後は特に異常もなく迷宮に通うことができている。


 最近では第二魔法に目覚めた俺たちにとって、初心者向けの『迷いの森』ではもの足らなくなっていた。しかし、今の迷宮より上位のDランク迷宮に入るためには、位階を上げる必要があるそうだ。

 そのための魔法測定ギフトテストが、通常行われる体力測定スポーツテストに追加される形で、今日の迷宮探索の授業中に行われることになっていた。



 探専で受ける魔法測定では、保有魔法の性質を確認して正(強化型)と従(干渉型)に振り分けたあと、魔法の威力、持続力、影響力、汎用力、支配力の五つを秀、優、良、並、劣の五段階で判定を行う。それを五位から四位、それぞれの位階内でさらに上と中と下の三つに分けられ位階が決まるようだ。

 例えば、正四位を称していた高階たかしなさんは正式には正四位上、従四位の平塚さんは従四位中ということになるらしい。

 この辺りは国内だけの序列方式だそうで、二十年以上前に行われた主要国首脳会議で色々と揉めたらしく、現在では名乗りをあげる際に、上中下を省いて名乗るのが慣例となっていた。


 五項目に対して一項目ごとに最大五点で二十五点満点ということになるため、最低得点の五点が五位下、五点ごとに繰り上げて満点のときに叙される最高位は四位中となる。

 毎年一年生の魔法測定では大半が五位中。四、五人が五位上で、四位下を叙されるのは数年に一人でるかどうかだそうだ。じつは卒業生ですら四位に到達する生徒は毎年一桁ほどしかいないらしい。そのため、学校から転移できる五つの迷宮のランクは、Eが一つ、Dが三つ、Cが一つとなっている。

 CランクであるシャドウウルフがEランクの『迷いの森』に現れたことは、相当イレギュラーなことのようだった。



  ◇◇◆◆



「さあさぁ、魔法測定ギフトテストを始めますよぉ」


 今回の迷宮探索の授業である魔法測定も、大道寺さんの間伸びした号令で始まった。


「それぞれの引率の魔法士さんたちからぁ、皆さんの評価は頂いてますぅ。今日は班ごとにぃ、一人一人の第一魔法と第二魔法を『迷いの森』で見せてもらって総合して位階を決めたいと思いますぅ」


 班単位で『迷いの森』へ転移して測定を行うようだ。残りの生徒は、通常の体力測定を行いながらの待機になる。

 俺たちの班の順番は最後になった。それまでは男女に別れて迷宮で強化された体力測定を行っていく。


 言わずと知れた体力測定の項目は、筋力(握力)、敏捷性(反復横とび)、跳躍力(立ち幅とび)、柔軟性(長座体前屈)、筋持久力(上体起こし)、素早さ・力強さ(50m走)、全身持久力(20mシャトルラン)の七種類。


 どの項目も去年までとは明らかに桁が違う結果がでた。



 握力 106kg(平均42kg)

 反復横跳び 120回(平均56回)

 立ち幅跳び 366cm(平均223cm)

 長座体前屈 54cm(平均49cm)

 上体起こし 77回(平均31回)

 50m走 3.89秒(平均7.41秒)

 20mシャトルラン 163回(平均87回)


(⚠︎括弧内の平均値は魔法士以外の数値です)



 柔軟性を測る長座体前屈以外はおかしな数字になったが、魔法士の高校一年生としては平均的な数字らしい。クラスの中でも握力と上体起こしこそトップだったが、他は上位五番目前後、20mシャトルランにいたっては下から数えた方が早いくらいだった。


 体力測定を終えてクラスメイトたちとダラダラしていると、やがて俺たちの班の魔法測定の番がやってくる。

 班の皆んなで集まると、校庭の隅で体力測定を見守っていた高階さんと平塚さんと合流して『迷いの森』へと向かうことになった。



—————————

▼《Tips》



木花こはな ゆき


第一魔法:溟晶の理ニクスマグナ

能力:熱と魔力を奪う性質を持つ雪の結晶を模した魔力の結晶体『溟晶ニクス』を創り出す能力。


第二魔法:荒天冥簪こうてんめいしん

元型アーキタイプ:不明

形状:鼈甲の中央に水晶の花があしらわれたバチ型のかんざし

能力:溟晶ニクスの力を増幅し強化して自由自在に操作する。

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