サイコロステーキ食いてえ!
タイムリミットを迎え、広い部屋に戻ったクリプトンの身体はズタボロだった。
「あーあ、俺が貸してやった服。新品だったのに!」
ハイドロが両腕を振って喚いている。
「しょうがねえだろ! あんなに爆発すると思わなかったんだから!」
「次はお前が買えよ! 俺、もう出さないからな!」
そうは言いつつも、ハイドロがクリプトンに譲った物、奢ってくれた物は中々いい代物で、使えなくなるまで原型を留めない物は未だなかった。今回の服も繋ぎ合わせればまだ使えるだろう。
「ところでクリプトン、お前、今何点だ」
腕の数字を見る。
「21になってる」
「ってことは、一人だけ1.5点の奴が紛れてたな。ラッキーだ」
計算が早い、と感心するクリプトン。他にも感心したことがあったことを思い出す。
「ハイドロは目がいいんだな。落ちる先にいた戦闘機が敵だって、一瞬で分かってた」
ハイドロの戦闘機はクリプトンのいた場所よりも遠かったにも関わらず、ハイドロはあの戦闘機が敵のものだと見抜けたことがクリプトンには感心事項だった。
「戦闘機には皆、拡大システムくらい付けてる。それを起動しただけだ」
白い歯を見せながら説明するハイドロは、次にクリプトンの話へ話題を移す。
「クリプトンも、よく一と六のヒントで分かったな」
「考えたんでね。『百八十度回れ』って意味だろ」
ツンツンと自分の頭を指差すクリプトン。ハイドロは頷く。
「さあさあ、ブラックスーツに着替えるけど、まずはその煤顔を拭け。顔までブラックは笑えん」
ハイドロは用意してあったタオルを投げて渡す。
「あんたは俺のオカンか」
クリプトンがフフッと笑い、片手で受け止める。
「あれ、ハイドロ?」
呼ばれたハイドロは固まったまま、クリプトンを見つめている。
「おーい、ハイドロ? 急に電池切れたか?」
左右に振られる大きな手を前に、ハイドロの口はハッと動いた。
「俺は充電式じゃねえよ。お前のナス顔を見てたら、髪までナスのヘタに見えてきただけだ」
「ひでえ! この天然パーマ格好いいだろ」
やっとハイドロも笑い出す。
「今晩はサイコロステーキ食いてえ!」
「ハイドロは肉が好きだな。任せろ!」
頭で店を選定しながら、クリプトンは頬を一拭いする。すると、白いタオルは黒く染まっていた。
……いや、まさかな。もしそうだったとしたら、計算が合わない。俺の計算が間違っている? そんなはずはない。一番重要な方程式だ。何よりも念入りに辿ったんだから間違いない。たまたま……なのか。やっぱり難しいな。
暇さえあれば、捕らえた戦闘員たちの顔を眺める。自分と目が合うと、彼らは青ざめた顔をした。
「また、顔を眺めているの? Arg18よ」
隣に来た仲間に問われる。
「違う。どいつから始末しようか考えてたんだよ」
適当に目の前の人間を撃ちながら答えた。
今日も、見つからなかった。ずっと探し続けている人。生まれた時から探していた人。どんな顔をしていて、どんな声なのかすら知らない。なぜ探しているのかも分からない。しかし、この気持ちだけは確かなのだ。
僕は、きっと誰かを探している。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます