第98話

ユキに出会って、色々なことを教えられたし、自分と向き合う気にもなれた。

自分を映す鏡として、ここ書き留めた私の心境やユキへの気持ちを読み返す。


随分と舞い上がり、ガラにもない甘いセリフのようなことを書いている。

美しくて心優しい女性に親切にされれば、男なら舞い上がるだろう。

そこまでは良いのだ。


では、万が一、幸運にして、その関係が長く継続した時、自分はどうあるべきか?

そのことを考える。


やはり、ユキに多くを求めないという覚悟だろう。

そして、ユキに笑ってほしければ、常に自分が笑顔を浮かべていられるようになることだ・・・


つまり、私自身の心が充実していなければ、いつかユキの笑顔は翳ってしまう。




さて、私はどうだろう?


確かに、最低限、食うには困らない職に就いているし、綱渡りをするような生き方もしていない。

酒を飲みタバコを吹かす生活だが、不思議と身体は健康だ。


本来、人と関わるのが苦手だが、やろうと思えば、イイカゲンで陽気なオッサンとして、肩の力を抜いて、男性にも女性にも接することもできる、だから人間関係というものには、あまり悩まない・・・そもそも不必要なかかわりを持たないからだ。


部屋の整理整頓が苦手なのを除けば、料理は趣味だし、部屋の整頓がきわめてだらしないだけで、生ごみとかにはうるさいから、不潔とは言わないだろう。風呂は毎日入るし、服も毎日違うものを着る・・・ユニクロだけどね(笑)


こう書くと、取柄は無いが、普通のオッサンにも見える。





ただ、どうだろう?

ユキのようなとびきりの美女に、親切に接してもらうことで、私は随分と舞い上がっている。


彼女からのメールが来れば、内心飛び上がって喜び、それが来なければどうしたのだろう?と、内心気になる。


分かっていると思うが、私とユキは交際などしていない。

ただ、自然に私の抱えていたものを吐き出せて、ユキがそれを受け止めてくれただけの関係だ。


良い言い方をすれば、私にとって信頼できる対等の友人・・・といったところが関の山だ。


ユキにとっては、数多くいるだろう友達っぽい知り合いの一人だ。


その温度差が、ユキにとってどういう悪影響を及ぼすかを、今のうちに冷静に見つめなければならない。



  ・素直な心で接する。

  ・感謝の気持ちを持つ。

  ・多くを求めない。

  ・言いたくない事は、決して問い詰めない。

  ・しつこく後追いしない。

  ・ユキそのものを肯定する、ただし明らかな過ちは叱るつもりだ。

  ・そして、この気持ちを自分にとって自然なものになるまで持続する。


それが死ぬまでできれば、ユキと私は気心のしれた仲の良い、互いに信頼できる友人になれるだろう。


だが、そういう強さが私にあるのか?

そう問われれば、自信がない。


無論、ユキの女性としての魅力は強烈だ。

街を歩けば、スカウトだのナンパだのに遭って嫌だから、ヘッドホンをして聞こえないふりをしなければならないほどだ。


体力のない初老の私だからこそ、多少(かなり)鼻の下を伸ばしただけで済んだのだ。


下心がないなどとは言わない、私は単なるスケベオヤジなのだ。


・・・では、今、ユキに何を思うか?




ちゃんと笑えてるかな?

体調は万全かな?

私のメールは負担ではないかな?

でも、連絡が来れば嬉しいな。



そのくらいだ。


ユキと話すことを、ウケを狙って、あらかじめ考えようとは思わない。

その時、思った事を話せばいい。


ユキから突然来る連絡が楽しみだ。

だからといって、無理によこさないでほしい。

寂しさとは、私にとって、一番身近な家族のようなものだからだ。





















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