12

 やがて、森の中に雨が降り出した。

 その静かな森に降る雨を見て、若竹姫は今ごろ汗だくになって、ほかの熟練の花火職人の人たちと一緒に、(若竹姫も玉姫が「遊びにおいでよ」と言ってくれたので、花火作りの工房を訪ねたことがあった。驚いたことに花火職人の組、月屋の親方はとても綺麗な女の人だった)花火作りの工房で、黄泉送りのための大玉の花火をたくさん作っているであろう玉姫のことを思い出した。(若竹姫の中で、玉姫は花火を作りながら、いつものように本当に楽しそうに白い歯を見せて笑っていた。玉姫は髪の毛につけた赤い紐のついた黄色い小さな鈴をちりんと鳴らしながら、花火職人は自分の天職だといつも言っていた)

「雨ですね」

 森に降る雨を見て、若竹姫が言った。

「ええ。雨です。昨日も、雨が降っていました。最近は雨の日ばかりですね」と若竹姫と一緒に、鳥の巣の庭に降る雨を見ながら、白藤の宮は言った。

「白藤の宮は雨は嫌いですか?」若竹姫は言う。

「そんなことありませんよ。雨は好きです。……ただ、雨が降ると、いろんなことを考えようになります」と白藤の宮は言った。

「いろんなこと?」若竹姫は言う。

「はい。いつもは考えないような、……、あるいは、考えないでいようと思っているようなこと。……昔のことや、これからのこと。いろんなことを考えたりします。雨の降っている景色や、雨の音を聞いていると、自然とそんな風にたくさんのことを考えてしまうんです。そのときは、なんだかとても悲しい気持ちになります」

 と少しだけ悲しそうな顔で笑って(それは、いつも天真爛漫の顔で子供のように笑う白藤の宮にしては、とても珍しい顔だった)白藤の宮は若竹姫にいう。

「……いろんなこと」若竹姫は言う。

「あなたのことも考えますよ、若竹姫」と白藤の宮はいう。

「私のこと、ですか?」(驚いた顔をして)若竹姫は言う。

「はい。あなたのこと。でも、そんなときは、なんだか、とっても幸せな気持ちになります」と言って白藤の宮は若竹姫を見て、本当に幸せそうな顔でにっこりと笑った。(それから白藤の宮は自分のふとももの上にある若竹姫の髪を、……、まるでお母さまのように、やさしくそっと、なでてくれた)

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