11

「どうして泣いているの?」

 そのかわいい女の子は自分の顔を若竹姫の顔にかなり近いところにまで近づけて、そう言った。(体はぴったりとくっついていた)

 若竹姫は黙っている。

「なにか悲しいことでもあったの?」

 かわいい女の子は言う。

 ……、若竹姫はやっぱり、黙っていた。

 するとそのかわいい女の子はそれ以上、若竹姫に質問をすることをやめて、若竹姫の隣で、さっきまで若竹姫がそうしていたように、そこから薄暗い世界に降る小さな雨の降る風景に目を向けた。(ちりん、と一度、かわいい女の子の頭の鈴が鳴った)

 若竹姫はそんなかわいい女の子の横顔を少し見てから、女の子と同じように顔を少し上げて、薄暗い世界に降る雨の風景に目を向けた。

 そこには、どんよりとした灰色の空があった。

 二人はそのまま、じっと、なんの話もしないままで、雨の降る風景を見て、ざーっという雨の降る音だけにその小さな耳を傾けていた。

 若竹姫はそのうちにこのかわいい女の子がどこかに行ってしまうと思っていた。でも、かわいい女の子はずっと若竹姫の隣にいてくれた。

 そうしていると、若竹姫はなんだか、少しだけさっきまでの(あんなにいっぱいあった)悲しい気持ちが自分の中からだんだんと消えていくことを感じた。(……、それが、すごく不思議だった)

 いつの間にか、若竹姫は泣き止んでいた。

「私、玉っていうの。よろしくね」としばらくしてから(今から考えてみると、きっと玉姫の性格からすると、大きなあくびもしていたし、退屈を抑えきれなくなったのだろう)玉姫はまるで今はどこにも見えない、雲の後ろに隠れてしまっている太陽のような満面の笑顔で、若竹姫にそう言った。

 それから泣き止んだ若竹姫が自分の名前を「私は若竹って言います」と言って、玉姫に教えて、それから二人は友達になった。「ねえ、若竹ちゃん。私たち友達になろうよ」と初めに言ってくれたのは玉姫だった。

 ……、玉姫は、(いつも、泣いてばかりいる)若竹姫にできた生まれて初めての大切な友達だった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る