第27話 暇なの?
貴族議会の会場は、やはりと言うべきか、無駄に広くて豪奢だ。
部屋を彩っているすべてのものの価値は、無駄に高いだろう。
そう、無駄だ。
宮廷貴族の豚どもを彩ってどうするんだ。
その金、俺に寄こせ。
壇上が一番低く、そこから段々と上に上がっていく形で椅子が備え付けられている。
その一つ一つに宮廷貴族が座り、壇上を見下ろすのだ。
うーん、ここでもその自己顕示欲。
全員家畜になればいいのに。
というか、俺を見下ろすとかありえないんですけど。
神ですら許されない行為である。
そんなことを思いながら会場を見渡すと、ところどころに空席が目立つ。
やはり、今回は一方的にいたぶるのがお好きな変態貴族どもだけが集まっているようだ。
死ねばいいのに。
「栄えある宮廷貴族の皆様におかれましては、お忙しい中お集まりいただき、誠にありがとうございます」
司会が話し始める。
どうやら、宮廷貴族ではないらしい。
そういう話し方だ。
「ただいまより、臨時貴族議会を開催いたします」
開催いたしません。
「本日の議題は一つ。先日発生いたしました、アポフィス領での内乱についてです」
こんなことを取り上げるとか、貴族議会は暇なの?
税金返せ。
「当事者である領主、バロール・アポフィス様をお呼びしております」
「ご紹介いただきました、バロール・アポフィスです」
お呼びしているじゃねえだろ。
来ていただいております、だ。ボケが。
と、そんな考えは微塵も出さず、殊勝に頭を下げる。
最近、俺頭下げすぎじゃない?
黄金よりも重たい俺の頭をこうまでもペコペコ下げさせるとか、本当不敬極まりない。
ここにいる奴ら、全員死刑にしたい。
「ふむ、ではさっそく質問させてもらおうか」
座ってこちらを見下ろしてくる宮廷貴族のおっさんが、偉そうに言ってくる。
誰が質問を許してやると言ったよ。
ふざけるなよ、豚が。
「どうしてすぐに貴族議会に報告をしなかった? 上の者に問題を報告するのは、常識だろう」
誰が上だよ、ボケカス。
お前は常に底辺で、俺は常に天上である。
ひれ伏せ、ゴミめ。
「はい。それにつきましては、皆様の目を通すことになるので、しっかりとした報告書を作らなければならないと思っておりました。そのため、報告が遅くなってしまったのです。報告書は持参しておりますので、またご覧いただければ幸いです」
報告書の作成なんてサボっていたわ。
ぶっちゃけ、今提出した報告書も昨日30分で作りました。
適当でーす。
「ふむ、そういった理由なら理解できる。ご苦労」
目を通したおっさんは、満足そうにうなずいた。
お目目節穴かな?
俺が30分で作ったやつだぞ?
本当にそれでいいの?
「では、次は私から。反乱がおきた理由について……」
「それにつきましては……」
「事態の収束方法について……」
「それにつきましては……」
その後、次から次へと質問が飛んでくる。
どれもこれも、俺は見事な切り返しで完璧に答えてみせる。
ふっ、さすが俺。
……想像していたよりも、随分と優しい質問である。
随所に俺をいたぶってやろうという意図は見え隠れしているが、こいつら程度の頭で俺が悩まされるはずもない。
うわべだけを取り繕って生きてきた俺にとって、その程度切り抜けることは容易である。
口先なら、誰にも負けない。
「……もうご質問がないようでしたら、臨時貴族議会を終了とさせていただきますが」
適当にバカ共の質問をいなしていれば、自然と静かになっていた。
うまく俺をいたぶれなくてもにょもにょとしている者もいるだろうが、俺は完璧に切り返していたので、追い打ちをかけてくるようなことはないだろう。
実際、司会の言葉にも反応することはない。
はあ、くだらない時間だった。
適当に王都で遊んで、時間を潰してから帰ろう。
溜まった仕事は……ナナシに押し付けよう。
そんなことを考えていれば……。
「はー、つまんないの。こんな話をするために、わざわざアポフィス領から来てもらったの? あんたたち、頭足りていないの?」
頬杖をつきながら、女がそう言った。
一番高い位置にある椅子に座っている。
珍しい。
女の宮廷貴族は、あまりいなかったはずだ。
周りの宮廷貴族をバカにするような物言い。
プライドが無駄に高い彼らが、それを無視することなんてできるはずもなく……。
……あれ?
どうして誰もあの女にキレないんだ?
それどころか、目を合わせないようにしているではないか。
うーん、嫌な予感。
ねえ、とこちらに振られても困るんだが。
なんだこの女。
「じゃ、私が聞いてあげるわ」
そういうと、女は友好的に微笑みながら尋ねてきた。
「弟を殺した感想、聞かせてくれる?」
なんだこの女!?
とてつもなくデリケートな部分を、いきなり突っ込んできたぞ!
こいつ、頭おかしい……。
他の宮廷貴族たちも、そこを突けば反発があるかもしれないと避けていたところだ。
それを、この女は一切気にする様子もなく、平然と踏みつけたのである。
「ねえ、どうなの? 私は経験したことがないから、分からないの。自分の血族……血のつながった人物を殺すというのは、どういう気分なの?」
「し、シルティア様……」
ウキウキと、楽し気に。
わざとだ。
そういった空気が読めないというわけではない。
読んでいて、分かっていて、なおもえぐる。
なんて性格が悪いんだ……。
司会も目を丸くして女の名前を呼ぶ。
と、とりあえず、この女――――シルティアに引くことはさておき、答えなければならない。
……シルティアって四大貴族やんけ!
ケルファインにかなり嫌われてしまったため、さらにもう一人に嫌われるわけにはいかない。
四大貴族のうち二人に嫌われたら、マジで死ぬ。
間違えないように……間違えないように……。
俺はシュンと肩を落とし、心底眉を下げて……。
「悲しいです、ね……」
「ふーん?」
一方で、眉を上げる女。
言葉をはさむつもりはないようだから、さらに言いつのる。
「やはり、血を分けた兄弟。このような結末になるのは、望むところではありませんでした」
「後悔しているの?」
しているわけないだろ。
ウキウキだわ。
「いえ、それはありえません。マルセルは……弟は、たとえ思うところがあったとしても、絶対にしてはいけないことをしました。反乱は、私だけではなく、罪のない領民たちにも被害が及ぶ。領主として、それを看過することはできません。私は、マルセルを殺したことを正当化するつもりはありませんが、後悔するつもりも微塵もありません」
ほお……と感心したようなため息が聞こえる。
ふへっ、また評価が上がってしまった。
俺の価値は留まるところを知らないな。
しかし、思ってもいないことを、よくもこんなにもペラペラ話すことができるものだ。
自分で自分が怖いぜ。
「弟を殺したのに? 大切な……大切な家族を殺したのに?」
「ええ」
俺が思っていた反応を見せないからだろう。
シルティアはさらに傷口をえぐるようなことを言ってくるが、俺はゆるぎない。
なにせ、傷にすらなっていないところだから。
「……つっまんないの! あの時の方が面白かった!」
頬を膨らませ、プンプンと怒りを露わにする。
しまった、ミスったか?
そう思ったが、ケルファインのような本気の怒りではないようだ。
……というか、あのときっていつ?
お前と関わり合いってあったっけ?
「ふうむ……」
「ほう……」
「…………」
シルティアと同じ高さに座っている貴族たちが、声を漏らす。
……いや、ケルファインは無視しているな。
ということは、残りの二人は四大貴族か。
……なんでそろいもそろって貴族議会に参加しているんだ、こいつら?
暇なの?
「……これ以上ご質問はないようですね。以上を持ちまして、臨時貴族議会を閉会いたします」
四大貴族は暇人の集まりだと分かったところで、貴族議会は終了した。
俺、完璧……。
万事滞りなく乗り切った俺は、満面の笑みを浮かべるのであった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます