美羽蒼來Ⅷ

「はーい。これでひととおり検査とかは終わりだけど、最後にいくつか話があるから聞いてね?」


「はい」


「TS病にかかった場合、経過観察として、1年間定期的に検査を受けに来てもらうきまりなんだ。だけどね、蒼來くんの場合。TS病患者の中でも特異な人.....通称『要観察患者』なんていうのに該当しちゃうんだよね。該当した場合、念の為、定期的な検査を2年多い、3年間受けてもらうことになるの。それでも大丈夫?あ、もちろん検査費用などは政府持ちだから安心してねー」


「僕は構いませんよ」

「ええ、私も....我が子が無事でいられるためなんですから、協力しますよ」


「話が早くて助かるー!それじゃあこれから毎月26日にここに来てねー。あ、今月もまだ26日すぎてないけど、よっぽどのことがない限り今月は来なくて大丈夫だよー。後ね、もし親に相談しづらい悩みがあったら定期検査の際に私に相談してもいいよー。」


「わかりました。もしあったら相談します」


「いつでもウェルカムだよー。さて、最後になるんだけど私の名前は鹿島理沙。受付する際は私の名前を出せば通りやすくなるかもだから利用してみてね」


「結構偉い役職の方なんですね」


「偉い役職もなにも私ここの院長だからねっ、ふふん!」

「「え?」」


今日一番の衝撃だった。まさか院長自ら診察に出向いているなんて思いもしなかった。


この人、見た目の若々しさに反して内包しているものが多すぎないだろうか?



その後、診察室を出た僕たちは、改めて看護師さんから説明を受けて、病院を出た。


次に向かうのは市役所。病院で交付された診断書を役所に届け出ることで、戸籍の性別が書き換わり、正式に政府のサポートも得られる。


具体的に言えば、補助金がメイン。月三十万くらいだっけ。基本的には性別が変わって着れなくなってしまった服を買うために使ってほしいらしい。


あと男性から女性に変わった人は、女性だけが月に一度くるアレに関する物を買ったりもするらしい。


ちなみに僕の容姿こそ幼女そのものだが、中身は年相応らしいので、時が来れば僕にも来るんだってさ。





道中何事もなく市役所に到着した僕ら。


病院に待ち時間とか含めたらそれなりに時間はいた。そのため、人が活発的な時間帯になり、市役所内も人で賑わっていた。

その中の4割ほどは僕に視線を向けていたと思う。


『何あの子、かわいい....』

『きれー....』

『美しい髪色だ....』


なんて言ってたような気がする。


自分で言うのもなんだが、以前より見た目には気をつけていたつもりだし、今の姿も割と、世間一般的にかわいいと分類される方に入ると思っている。


とまあ僕の見た目の話は置いておいて。


僕たちは役所の職員さんに診断書を提出する。


「あのー、うちの子がTS病を発症しちゃって...あ、これ診断書です」

「TS病ですか....なるほど。診断書は1度お預かりいたしますね」


受付を担当したのは新人っぽい人。


身長は160センチ前半で、オレンジ色の髪に赤縁のメガネをしている。


その人は僕らから診断書を受け取ったあと、後ろの方へと歩いていった。


なんか上司らしき人と話している。

TS病患者の対処の方法を確認しているのかな?


発症確率結構低いらしいからね、新人さんは初めて見るのかもね。TS病に実際になった人。


しばらくして、戻ってきた受付の人は、診断書を僕らに返した後、話し始めた。


「では、TS病患者への対応についてお話させていただきます。1つ目。毎月30万円の補助金を送付いたします。こちらは2年間継続いたします。2つ目。本日より美羽蒼來さんの性別は戸籍上女性という扱いになります。ですのでいろいろ変わることがあると思います。それについてお困りのことがありましたら、病院の方か、私へ気軽にご相談ください。」



「.....美羽さ....えーと、蒼來さんは年齢のわりに落ち着いているというか....淡々としてらっしゃいますね?」


「よく言われますね」


「やっぱりそうです?....ってなんか関係ない話になっちゃってますね。受付や説明はこれで終わりですので、お気をつけてお帰り下さい」


「はい、ありがとうございました」


そうして市役所での手続きも終えた僕たちは、再び車に乗り、自宅へと走らせ始めた。


「蒼來、お腹はすいたかしら?」

「いや、そんなに....」

「やっぱり性転換して食べれる量も減ったのかしらねえ....」

「そりゃあ面倒なことになりそうだ。ただでさえ少食気味なんだから、これ以上食べられなかったら、栄養失調で倒れるんじゃないかな、僕」

「ま、そこらへんの対応は後々考えましょう。慣れない体で疲れたでしょうし、家につくまで寝て休んでていいわよ」

「....じゃあ、そうしよっかな」

「ええ、....おやすみ、蒼來」


その声を聞いて目を閉じる、そしてすぐに僕の意識は落ちた。思った以上に疲れていたみたいだ。


その後、家につくまで僕は起きることなく、母さんに起こされて目を覚ました。


そして、これ以上は特筆することなく、性転換して最初の一日は終わりを迎えた。


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