第7話 ゲテモノ

 僕は街の集会場に避難していた。

 なぜ、そう成ったのかは分からない。



 防災無線から、


『市民の皆様は最寄りの避難所に避難して下さい。危険が迫って居ます』


との、アナウンスが流れたが、差し当って身の危険を感じては居なかった。


 僕は予め指定されていた集会場へ向かい、非難して来る住民の為にあてがわれた部屋に入った。

 

 見ると、僕の他には女性が二人、毛布にくるまって寝息を立てて居た。


 僕は彼女たちを起こさない様に、少し離れた場所に落ち着いたが、未だに、何のための避難なのか分からず仕舞いだ。


 しばらく経って、何処かから異臭が立ち込めて来た。

 その匂いは次第に強まって来る。

 何者かが近づいて来て居る気配がして、僕は息を殺した。


 部屋のドアは開けっ放しになっている。

 気配はするが姿が見当たらない。

 

『おやっ!』


 手のひら位の何者かが部屋に入って来た。

 何という醜さ。

 その身体は、頭と、胴と臀部に別れて居る。表面は硬い物質で覆われて居るようだ。

 カニの様な手足が胴から複数延びていて、その口には左右に拡がる牙のようなものが有り不気味に動いて居る。


 咄嗟に僕は、


『ゲテモノ』


と、口ずさんだ。


 声が漏れ伝わったのか、そのゲテモノは僕の方に多くの手足を器用に操りながら近づいて来た。


 どうやら、僕を狙って居るようだ。

 僕の手もとには、これと言って対抗できるものは無い。

 素手で対峙する他ない。


『カシャカシャカシャ・・・』


 ゲテモノは僕に迫って来た。

 戦闘モードにでも入ったのか、ゲテモノの身体は倍近くに成って居るでは無いか。


 その体が飛び跳ねたかと思うと、僕の顔面に~。

 咄嗟に、払い退けたが、僕は手傷を負ったようだ。

 差ほど痛みは感じなかったが、グズグズして居ては涎を垂れながら開き閉じしている牙に噛みつかれてしまう。


 僕はその胴体を抱え込み、頭を鷲づかみにするや、クルクルを捻じ曲げた。

 何度も、何度も捻じ曲げたが、一向に千切れる様子は無かった。

 ならと、臀部も同じように捻じ曲げたが、これも、思うようには成らなかった。


と、ゲテモノは痛みを覚えたのか、僕の身体から跳ね退いた。


 ゲテモノは捻じられた身体を元に戻そうともがいて居る。


 先に避難所に来ていた二人の女性は、僕らの格闘に気付かないのか眠ったままで居る。


 ゲテモノは体を元の形にするや、又もや、体が大きく成って行くでは無いか。


 僕は女性たちに近づき、彼女たちを毛布で覆い、ゲテモノから隠そうとした。


と、一人の女性の目が開いた。


 その顔には見覚えがあった。

 人知れず思いを寄せていた人だった。


 多分、僕はゲテモノには敵わないだろう。

 これが今生の別れに成ると思い、彼女に最初で最後の口づけをした。

 目を見拡げて驚いて居る彼女を毛布で隠し、


『これで、もう、思い残すことはない』


と思った時に目が覚めた。


 夢の中に置き去りにして来た彼女の事を思うと、辛くて堪らなかった。


 現実の中で彼女に行き会ったら、


「あの時は、ごめんなさい」


と、言ってしまうかも知れない。


 

 


 

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