第54話 その頃、関東某所
月光を素肌に浴びても、筑紫より遠い土地ではなんの足しにもならない。
わかっていても、尽紫は岩の上で裸体を晒し、霊力を少しでも回復すべく月光を浴びていた。
尽紫がいるのはメガソーラーの輝く廃村、その岩の上。
贄山は車の中で仕事用の電話で何か連絡を取っているようだった。ずっと怯えたり、誰かに謝り倒したりしている。
贄山から奪った私用のスマートフォンを耳に当て、尽紫は徐福の声に耳を傾けた。
『やっぱり壊れてないですよ、楓さんは』
わかり切った、それでいて聞きたくもない言葉だった。
『あなたでは楓さんと紫乃の関係を壊すのは無理です。今回は諦めましょう。贄山程度の寄生相手では、これ以上は命を縮めるだけです』
「あなただって失敗したじゃない、徐福。偉そうな言い方できる立場?」
『我は端から長期戦のつもりです。失礼ですがそんな雑魚を弄ぶしか能のない、今のあなたよりは念願に近い立場です』
気づけば尽紫は、髪の毛でスマートフォンをボロボロに壊していた。粉微塵になるまで、何度も、何度も、髪の毛の槍で突き刺す。
「……ふざけないで。私は筑紫野の神よ。古き土地神、人に飼い馴らされることを選ばなかった、本来の神が私なのだから……」
苛立ちのまま髪を伸ばす。贄山の車の隙間という隙間に髪が入り込み、数秒後、贄山の裏返った声が廃村の夜に響いた。まるで獣の遠吠えのような、発情期のような声をあげて贄山は啼いた。
それでも、尽紫の苛立ちは収まらなかった。
爪を嚙み、尽紫は立ち上がった。
「もう私が行くしかないわ。……紫乃ちゃんから、また楓ちゃんを奪うのよ」
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