第44話 北九州も豊前も、まあだいたい筑紫島の範疇だし。
「ほっほっほ、気を抜いてはいかんぞ楓殿。あと残り四つだな」
彼女は口元に手を添え笑う。
私が距離を取って警戒態勢を取ると、彼女は袖を振って高らかに叫んだ。
「行け! 我が同志、ニホンカワウソたちよ!」
海御前様の扇に導かれ、カワウソたちが俊敏に私を追ってくる。
みんな赤い幟をつけている。平家だろうか。
河童は緑のもの以外にも、カワウソっぽいものもいるらしい。
彼らはふかふかと追いかけてくる。可愛い。
「コツメカワウソから覇権を奪うぞー」
「楓殿からリボンを奪ったら、我々を福岡市動物園に持ってってもらうのだー」
「ニホンカワウソにあらずんば平家にあらずー」
「大発見だー」
「そ、それは今真剣に研究者さんの迷惑になりますーッ!」
可愛い見た目でありながら動きは俊敏で、かつ言ってることは結構過激だ。
「それっ、九月蚊帳!」
彼らは叫びながら、網のように私に蚊帳をかぶせてくる。
海御前さんが解説する。
「九月にも蚊帳を出してるとよくないですよという、筍の産地、合馬のあやかしだ!」
「うわー、教育的なあやかしーッ!」
蚊帳はごそごそと動いて私を捕らえようとする。
「ごめんなさい! ちゃんと衣替えや布団の入れ替え頑張るので許してください!」
私は彼らの隙をついて、はやかけんを構える!
「はやかけんビーム!」
「効かぬ! 九月蚊帳の中は強力な結界となっているので、ビームを飛ばしても効かぬ!」
「えーん、かくなる上は鈴に頼るしかない!」
私は神楽鈴を振り回しながらやたらめったら鳴らす。もうそれしか対抗策がない。
するともがく私の動きが巫女神楽判定となったのか、急に九月蚊帳さんが緩んだ。
緩んだところで、私は九月蚊帳さんの中から脱出。
九月蚊帳さんと河童のカワウソさんたち、そして海御前さんに向けて親指と人差し指でカードを構えて、打つ!
「はやかけん……ビームッ!!」
ドドドドド!
吹き出す温泉のような霊力で、彼らは吹っ飛ばされて宙を舞う。
「ああ~」
「二日酔いに、効くわぁ~」
彼らはひゅるひゅると、中洲を囲む川、那珂川まで落ちていく。
私は那珂川に架けられた西大橋まで走り、橋から博多湾へと向かう彼らを見た。
ぷか……と水面に浮かんだ彼らは、恍惚とした顔でそれぞれ両手を繫ぎ合って数珠繫ぎになり、流れに乗って博多湾まで運ばれていった。
「溺れないでくださいね! いくらあやかしでも、お酒呑みすぎちゃだめですよー!」
声を張り上げつつ見送っていると、海御前様が片手を上げ、私に何か指さして示す。
「袖? ……あっ」
巫女服の袖の中に、赤の五色布が入っていた。どうやら勝利を認められたらしい。
「ありがとうございまーす!」
ぐ……っと親指を立てたまま、海御前様は潮に流されていった。
「これで、二枚目か。梅の花は残り四つ……」
中洲と天神の境界。
川を挟んでビジネス街、歓楽街、そして繁華街が分かれる中間地点の景色を望む。
空が広いのも相まって、風が気持ちよく流れていった。
「いたぞ! 楓殿だ!」
「見つけたぞ!」
穏やかな時間なんて一瞬だ。空を彗星のように、一対の天狗が滑空(かっ くう)してやってくる。
「あっさっき舞台にいたTNG四十八の中のお兄さん!」
「正解であるっ! 某は高良山筑後坊ッ! いざ参る!」
「我は英彦山豊前坊ッ! 我と筑後坊、司会の高林坊以外は県外からの観光目的だッ!」
「それはありがたいことです、ね……!」
私は、はやかけんをすぐに構えて迎撃態勢に入る。
「はやかけん……ビーム! ビーム! ビーム!」
「ははは! 修行が足りぬ、足りぬぞッ! 楓殿ッ!」
何度も何度もビームを放つも、ひらりひらりと躱してくる天狗には全く当たらない。笑いながらきりもみ回転を入れつつ、彼らは私をあざ笑うように降りてくる。
「は、早すぎて全部避けられるーッ!」
「ははは、覚悟ッ!」
「わーっ!!」
反射的に橋に伏せる。
すると目の前で爆発音が響く。男の人たちの叫び声が聞こえる。
箒に乗った魔女さんペアが、これまた彗星のように彼らに向かい、閃光で迎撃を始めた。
「楓は私たちのものです! あなた方には譲りません!」
「な、なんだと……南南西大学の教授か!」
「私たちはブルターニュの魔女! 南南西大学の外国語学部には極秘に魔女専攻科があることを、知らないとは言わせないわよ!」
「そして私たちは専任教授でーす!」
「いえーい!」
彼女たちは私を見てウインクをする。
「楓、日本の忘れられた旧き巫女、私たちは興味がとってもあるのよ♡」
「あとで花を散らしてやるわ、負けたら大学に来るのよ、ハニー♡」
爆発でアフロになった天狗さんたちが、なにおう! と野太い声で応戦する。
「楓殿は我が英彦山にて研鑽(けん さん)を積み、たくましい巫女になってもらう!」
「なんですって!? 聞き捨てならないわね!」
「そちらこそ! 楓殿をかけて、いざ尋常に!」
「か、勝手にかけないでくださーい!」
両者の熱意に身の危険を感じ、私はダッシュでその場を離れる。しかしまた空から陸から地中から、私を狙うあやかしや神霊さんたちの手が襲いかかる!
「あそこに楓さんがいるぞ!」
「楓殿!」
「えーい! はやかけんビーム……あれ!?」
全部吹っ飛ばすしかない! と思ったけれどビームが出ない。
先ほど天狗さんを撃墜しようとしたときに、霊力(タマ)切れになったらしい。
「う、噓でしょー!」
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