38.異変と違和感
王都に戻ると、ミレは国王陛下と二人で会話をしたいと、アスたちを別の部屋で待たせた。それから30分もしない間に、ミレと国王陛下は険しい顔でアスたちのいる部屋へとやってきた。
「4人とも、急ぎ協力して欲しい。シールド内に魔物が現れたそうだ」
「魔物!? なんで……。まだもう少し先のはずじゃ……」
実際のところ、クリスタルの力が弱まりシールド内に魔物が現れるのは、少なくとも2年は先だと聞いていた。その頃にようやく神子の力を使って封印できるようになるのだと。アス自身、自分の力が足りていない事に悩んではいたが、心のどこかではまだ先の話と思っていた。
「……それがわからぬのじゃ。神の国としても原因を調査したいと思っておる。だからアス。急ぎシールドの境目にクロと共に行き、応戦してくれぬか」
「俺はクリスタルの所に行ったほうがいいんじゃない? もし何かあったら……」
「今は調査をしたい。実際先日までは封印できぬ状態だったから、来てもらっても何もできぬかもしれないしの。それが終わるまでは魔物に応戦して欲しい。神子がおるとこの国の民も安心するじゃろ」
ミレの言葉に、アスは頷くしかなかった。それを見て、国王陛下も口を開く。
「ロイとスト君にもお願いする。騎士団にも急ぎ命を出すつもりだ。リアもシールドの境目に指輪の力を使い騎士団を派遣、及び魔物で怪我をした人たちの治療を頼めるか」
ミレの言葉に、3人とも頷く。
「黒いドラゴンに関する正しい伝説は、ある程度は広まっている。ただ、完ぺきではないだろう。だから、アス君はクロとセットで対応して欲しい。騎士団にも、混乱している人への呼びかけをお願いするつもりだ」
「わかりました」
細かいことをミレに聞ける空気でもなく、アスたちはそれぞれ担当する場所へと向かった。アスはクロのところへ行き、ロイから返してもらった指輪を使って、まずは生まれ故郷へと向かった。そこは森と面しており、一番魔物が多いと言われる場所だった。
「なに、これ……」
そこに広がっていた光景を見て、アスはぞっとした。魔物が入り込んだとして、ほんの少しだと思っていた。弱まったとして、最初はそれぐらいだと聞いていた。
けれども街には何十体もの魔物が入り込んでいて、賑やかだった通りは荒らされていた。魔物と出会った時の対処法は来るときに備えて通達は出ていたが、対魔物に慣れている人などほとんどいないため、血を流して倒れている人もいる。
こんな事になりたくなかったのに、なんで、どうしてという気持ちが溢れてきた。
「こっちに来い! 相手してやる!」
と、叫んでいる聞き慣れた声に、アスはそちらの方を見る。ルーゼが屋根の上に立ち、弓で矢をひたすらに放っていた。
「ルゼばあ! 何してんの!」
「その声はアスか! いいところに来た! 応戦しておくれ!」
「そのつもりで来たから! というか、ルゼばあも家の中に入って!」
「一人に任せられるわけないじゃろう!」
「大丈夫! 俺は神子だから!」
とりあえず目の前のことに集中しなければとアスは魔物と向き合った。アスはストの村の時のように、ルーゼの周りにいる魔物を雷を使って魔物を倒していく。クロも炎で、魔物を燃やしていく。
「クロ! あまり街に被害が出ないようにお願い!」
「ガウ!」
クロは少し広い場所へ降り立つと、大きな声で鳴いた。すると魔物が獲物を見つけたと言わんばかりに集まってくる。そこを狙い、アスとクロで次々と倒していった。
騎士団も到着し、数も落ち着いてきたころ、驚いた顔でこちらを見つめるルーゼと目があった。
「ルゼばあ、いつまでここにいるわけ」
「いやあ、見とれておった。まさかアスが神子だったとはのう」
「そんな事言ってないで、家の中に入って! 飛行型の魔物もいるんだから! というか、ダンは無事!?」
「ああ。あいつは小心者じゃ。家の中に入っとる」
「じゃあ、ルゼばあもダンの家に行くよ!」
そう言って、アスはルーゼを強引にクロに乗せて連れて行った。
「ほう。おまえはあの時のドラゴンか。大きくなったのう。そうじゃ。村にはたどり着いたか?」
「ルゼばあのおかげで。話したいことは沢山あるけど、今は中に入って!」
「ダンには会っていかんのか」
「ごめん。その暇がない。よろしく伝えといて」
そう言ってアスは強引にダンの家にルーゼを押し込み、またクロの背中へと飛びだった。
本当は、これからの事を考えると一度会っておきたかった。けれども、それどころじゃないのは見てわかった。
まだ生きている人達を、リアのいる所へと指輪の力で送る。その間にも、倒したはずの魔物が次々と現れ、街は魔物の死体の山となっていた。騎士団の人達にも、けが人が出始めていた。
流石にこの状況が、ただクリスタルの力が弱まっただけじゃないということは、アスもわかっていた。まるで、クリスタルの力が無くなってしまったような状況だった。
本当はクリスタルの様子を見に行きたい。けれども、それをしてしまえば、更に被害が出るだろう。他の街にも行く必要があった。
森の方へと向かうと、魔物がためらいもなくシールドの境界とされていたところへと入っていく。クリスタルの作るシールドに頼りきっていたから、シールドの境界を示す低い柵がある程度で、魔物をせき止めるものはなかった。
ふと、アスはストの村を思い出す。ストの村は、クリスタルなしで魔物から住居を守っていた。そこには、高い木の柵があった。
「クロ!」
アスは叫んでクロを呼ぶ。そして背中に乗った。
「あの柵に沿って飛んで!」
「ガウ!」
アスは魔法で、頑丈な木の柵をストの村のように生やしていった。これで、飛行型の魔物を除いて新しく魔物が入ってくる可能性は無いだろう。数が減れば、騎士団でもなんとか対応できるはずだ。
ストの村の何百倍もあるこの国を一周するのに、流石に時間はかかった。見える範囲の魔物を倒しながら、アスはこの国を高い木の柵で囲っていく。
アスの集中力も切れ始めた頃、ようやく最初に作った木の柵が見えて来た。魔物の数も落ち着いて来たのを見届け、アスはクリスタルのある王都へと向かった。
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