第5蔵 改装される倉庫
「…」
「食事を持ってきたんだ
よかったら、食べながら話さないか?」
「……」
宿の主人が言ったとおり、フィブは部屋から出てこない
俺の言葉でも、返事はない
「…ごめん、開けるよ」
鍵を使ってフィブの部屋の扉を開ける
ともかく、話を聞いてみない事には、先に進まない
覚悟を決めた、俺の目に映った光景は…
「なっ…?!どうしたんだフィブ、そんな格好で…」
そこは、暗い部屋の中…
下着姿で、たらいの中に入った自らの僧衣をひたすらに洗う彼女がいた
「落ちない…」
「え?」
「落ちないの…っ」
フィブはよくわからない事を呟く
…俺は彼女の顔を見て話そうと、目の前まで近づいた
「?!」
たらいの中の僧衣は、洗いすぎたせいか、ボロボロになっていた
「こんなになるまで、何を…?」
自慢の僧衣だって、俺に言ってたのに…
彼女の肩を持ち、顔をこちらに向ける
普段からは考えられない、今にも泣きだしそうな…崩れた表情をして
「お、お父さんが倒れて…
仕送りを減らすわけにはいかなくなって…」
…やっぱり、そうか…
予想通り、実家で不幸があったんだな
「それで…リーダーに、なんとかリフトくんを
復帰させてもらえないかって、お願いしたの
もう、パーティをやめれなくなったから…必死で…」
「お、俺の事はいいんだよ、気にするなよ……」
不甲斐ない俺との約束を気にして…
親父さんのためならしょうがないって、言ってくれれば納得するのに
「そうしたら…」
「……」
「『誠意を見せろ』っていやらしい顔で、言われて…っ」
誠意…?
せ…誠意って何だよ…?!
あいつ、そんな事を言って、フィブに何を…
…下着姿の彼女…
…泣きそうな顔で、服を洗い続ける…
つ、つまり…
「リフトくん…わたし、汚されちゃった…っ」
俯いて目を逸らすフィブ
「洗っても洗っても、汚れが落ちないの…」
震える声で、訴える
消えないのは心の汚れ
洗って落ちるものではなく…
「わたし…リフトくんのお嫁さんになる資格、なくなっちゃった…」
その一言で…全てが弾けた
「あ…あ……あっ……
ああああああああああああああああああああああ!!!!!」
怒りが全身に満ちていく
あいつは…あいつはフィブの弱みに付け込んで、なんてことを…!
「ふーっ…ふーっ……」
殺す…!殺す殺す殺す殺す!!
許さない…絶対に許さない……!!!
この世に肉片の一つも残さない!!
完全消滅させてやる…!!!!
…ボウッ!
怒りの炎が燃え上がり、俺の心を支配した
炎は俺の全身を包み込み、激しく光を放ち…
…いや、待て…目に見えるぞ、この炎…っ
「な、なんだ…?!力が沸き上がるような感覚が…」
輝く俺を見て、放心したように目を丸くするフィブ
だが、すぐに首を振って正気に戻り
「ひょ、ひょっとして…覚醒したんじゃない?!」
と、自身の推測を言った
…そうなのか…?これが…覚醒…?
「精神に強い負荷が与えられたときに、ギフトが覚醒するって…」
精神への強い負荷…
「よかった…リフトくんの願いが叶った……」
フィブは涙を流し、喜んでくれる
けれどそれは、彼女が傷ついた怒りからで…
「違う…俺は……っ
フィブを守るために、力が欲しかったのに…」
赤く燃えるようなオーラを放つ、自分の手を見つめる
この力が、もっと早く手に入っていれば…っ
「リフトくんっ…ありがとう……
でも、いい…いいんだよ…
わたしのした事が無駄じゃなかった、それだけで嬉しい…」
泣きながら…でも笑顔で、フィブは俺の手を握る
許せない…こんな…こんないたいけな彼女を、欲望の魔の手に染めて…!!
「うおおおおおおおおお!!!!」
バリィィィィィン!!!
「え…ちょ、ちょっと?!リフトくん?!」
気が付くと、俺は窓から飛び出していた
全ての悪の源を…!
あのリーダー面した腐れ野郎を殺さなくては…!!
やつが生きている限り、フィブは安らかに眠れない……!!!
飛び出した俺
向かうのは、いつもの酒場
身体に熱い魔力が流れ、覚醒したギフトの操り方が、感覚で伝わってくる
奇妙な感覚だが、これが新しい段階に移ったという事なのだろう
このギフトならば…やつを殺せる!!
バン!!!
壊れるくらいの勢いで扉を開き、酒場に入る
「お、どうしたんリーダー?いつもと違う服じゃん」
「ワインをこぼしてしまったからな、洗濯中だ」
いつもの席で、盗賊ティニーとリーダーがとぼけた会話をしている
どっちにしろ、胸元の空いた謎服じゃないか!
フィブをあんな目に合わせておいて…人の心は無いのか!!
「ん?リフトじゃん」
「聞いたぞ!ようやく新人たちとダンジョン行ったみてえじゃねえか!
さぞちやほやされて…」
こちらに気づいて何かを言い始めたが、もう遅い
この距離は、すでにこちらの射程圏内!
「『奇倉店外(ストレンジ・ストレージ)』、ターゲット・クロース!!」
必勝の一撃を、奴が気づく前に叩きこむ!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます