第3蔵 俺の拳を受け取り拒否
聞こえてきたのは、間違いなくこれはリーダーの声
…冒険者の集まる場所が、近辺ではここしかないし
奴と遭遇するのも当たり前なんだが…タイミングが悪い……
「こいつは6セクシーぐらいあるな!」
???
何を言ってるんだと思いつつ、リーダーの方を見てみると…
「ちょ、ちょっと…!何なんですかコレ?!」
「…流石にこれは、防御に不安があります…」
「あははっ、もー、しょうがないスケベじゃんね☆」
パーティメンバーたちが、水着のような鎧を着させられていた
「うひょぉ、いいねいいねぇ」
「だろー?」
リーダーは、酒場の下品な客に答えながら、テーブル席に座る
…いや、なんだあの痴女みたいな鎧は…
フィブなんてでっか…い、いや、恥ずかしくて震えているぞ…
「何って…いわゆるビキニアーマーってやつだが」
自信満々に、リーダーは腕を組んで説明をする
「ダンジョンでお宝が手に入ったからなぁ
魔法鍛冶師と大金をかけて作った鎧をプレゼントだ!」
大金…ということは、もうあのダンジョン潜ってきたのか…
まだあれから三日くらいしか経ってないぞ……
「魔力の膜を纏うから、肌が見えつつも傷一つつかん逸品だぞ!」
「…普通のアーマーに、その効果を付与したほうが良かったのでは」
「この方がセクシーだろう?!セクシーは世界を救う!俺も嬉しい!」
「はぁ…」
呆れた顔をする剣士オーバー
…彼女は剣で斬る事しか考えてないから、別に恥ずかしいとかは無いのだろう
だが…
「い、いやでも、この格好は…」
フィブは胸を押さえて、恥と困惑の表情を浮かべている
「なんだ?普通のアーマーを着れない僧侶は、こっちの方が軽くて防御力も高いぞ?」
「そ、それはそうですけどー」
断りにくい状況を作って、彼女の肢体を嘗め回すように見るリーダー
…俺はそれが許せなかった
「やめろ!このスケベ野郎!」
リーダーに向けて、俺は叫ぶ
こいつはパーティメンバーを、駒のように見て遊んでやがる…!
リーダーは、座ったまま俺の方に振り向き、いやらしい笑みを浮かべてこう言った
「お、どうしたお前?新しいパーティは見つかったかあ?」
「…そ、それは後でいい!」
俺の後ろで見ている新人くんたちは
気まずい顔で俺とリーダーたちを交互に見ている
…うん?
新人くんを見たリーダーが、一瞬渋い顔になった…?
…ああ、そうか……
俺や新人くんのような低レベルの人間は大嫌い、ってことか
くそっ…高いところから見下ろしやがって…
…ともかく新人くんとの話は後だ
今はフィブのピンチが優先!
「嫌がってる女子に、無理やり破廉恥な格好をさせるなんて!
お前は人として軽すぎる!」
「嫌なのか?」
「ぐっ…そ、それは…っ」
フィブはやめるにやめられない状況なんだ
それなのに、こいつはイヤらしい注文を平気で…!
「…別に私は構わない、呆れはするけど…」
剣士オーバーは、目を閉じてため息をつくだけ
「リーダーの言う事だし、従わなきゃねぇ☆」
盗賊ティニーは、むしろノリノリだ
「…う、い、嫌じゃない…です……」
僧侶フィブルスは、二人の反応を見て、観念したのか俯いてそうつぶやいた
「…無理に付き合うことはねーぞ?
幼馴染の小僧と冒険したいってんなら、退職金代わりにそれやるからパーティ抜けていいんだぞ?」
「だ、大丈夫…です…」
「そうか…」
その言葉を確認すると、勝ち誇った顔こちらに振り向くリーダー
「…ま、そういう訳だ、パーティメンバーでなくなった奴が口を挟むな」
ニヤニヤと俺を見下すような目つきで笑う
こいつらはもう俺の女なんだよと、いわんばかりの…!
「う、うおおおおおおおお!!!」
ダメだ…!
他の事は我慢できても、フィブを辱める事だけは、我慢できない…!
俺は勢いに任せて、そのまま殴りかかりにいく
ブォン!
「ぐっ?!」
「甘ぇよ」
リーダーは座ったまま、首を動かすだけで俺のパンチを避ける
そして…
「『火炎飛球(ファイアーボール)』」
その一言で、炎の玉がリーダーの頭上に生み出され
それが高速で俺にぶつかってくる
「ぐあああっ!」
その勢いに吹き飛び、リーダーから離される俺
「動きが直線的すぎる、格闘の訓練もしておけ」
「あああああ、あっ、あつっ…?!」
「…って、おや?」
奴が何か言っているが、それどころじゃない
炎が服に燃え広がって、全身が焼けていく…!
「お、お願いリーダー!彼を許してください!
これじゃ焼け焦げて死んでしまいます!」
「お、おお、そうだな…
初めて使った魔法だが、ここまで威力があるとは」
『落下水流(ウォーターフォール)』
奴の魔法で、俺の頭上から水が勢いよく降り注ぎ、炎が鎮火する
た、助かった…
『高速治癒(クイックヒール)』
そして、ついでと言わんばかりに、回復魔法までかけられた
身体が輝き、みるみるうちに火傷を負った部分が消えていく
「実力もねぇのにつっかかってくんなよ、ぶぁーか!」
「く、くそおっ…」
リーダーは『魔法大全(ジ・オールマイティ)』というギフトを持っている
習得の努力をすっ飛ばして、魔法なら何でも使えるというチートギフト
精神性がアレな奴がリーダー足りえるのも、このギフトがあってこそだった
「さ、飲み会すっぞぉ!
せっかくだからその格好でお酌してくれ」
「チップ弾んでよね♪リーダー」
「はっはっはっ、しょうがねえなぁ…セクシーにやってくれよ?」
盗賊ティニーに寄りかかられて、まんざらでもないリーダー
お前らだけでやれよ、フィブを巻き込むなよ!
「おう、酒場の奴ら!今日は奢りだ!いっぱい飲んで騒ごうぜ!」
「お、随分儲かってんじゃねえか!」
「さっすがブラックロードのリーダーだ!気前いいよな!」
「いいだろー、俺に惚れるなよ?いや、むしろかわいい女子は惚れろ」
リーダーの奢りとわかると、勝手に盛り上がっていく周囲
くそ…現金なやつらめ……
「おら、お前はとっとと帰れ
命があっただけ儲けものと思えよ」
ニヤニヤと笑うリーダー
くそっ…今の俺じゃ、絶対敵わない…
さすがにギフトで差がありすぎる…!
「あ、あの…リフトくん……いったん戻った方がいいと思う…」
「な…?!フィブまでそんな…っ」
「だ、だって…」
フィブは顔を真っ赤にしながら、俺の顔…ではなく俺の下腹部のあたりを見る
…あれ?
「あ、ああああっ?!!」
回復魔法により、身体の傷は癒えていた
けど、燃えた衣服は戻っていない
つまり…俺の大事な部分が、丸出しになっていたのだ
「ちっちぇな」
酒場の奴らの、どっ、という大きな笑い声
「う、うああああああああああああっ!!」
俺は恥ずかしさにたまらなくなり、酒場から出ていった
ちくしょう…ちくしょう……っ!!
絶対復讐してやる…絶対にっ……!
俺はこの日の屈辱を絶対忘れないと、心に誓った
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます