第40話 夜に染みる神様①

「ねえ、青海ちゃんはどんな服が好みなの?」



 少し大きなショッピングモールにて。

 フリフリなフリルが大量についたワンピースを取り出して、汐美は青海に語り掛けている。



「えっと、そういうのはキツイかなぁ。もっとシンプルなので」

「えー。折角かわいいんだから、もっとオシャレしなきゃダメよ」

「すみません、今はオシャレする気持ちはなくて……」



 青海が申し訳なさそうに眉根を下げると、汐美はクシャッと笑った。



「そうよね。ママになったんだもん。動きやすくて汚れてもいい服の方が大事よね」



 青海は苦笑いで返すしかなくて、内心毒づく。



(ボク、母親らしいことしてないのに)



 今だって、汐美の友人に赤ちゃんの世話を任せて買い物に来ている。

 普段も、世話のほとんどを汐美に任せている。

 自分のことを考えるばかりで、何も役に立てていない。


 だけどそれを許してくれる汐美に対して、少し甘えてしまう自分がいるのも事実だ。


 自分を見るのが嫌になって、ふと周囲を見渡す。



(明らかに、見られている)



 汐美は近所ではおお人好しのオバサンとして有名人だ。

 だけど、それだけが理由じゃない。 


 青海の存在が、悪い意味で広まっている。



(周囲の目が痛い)



 海辺で気を失っているところを拾われた。

 しかも、妊娠した状態で。


 それを拾った人も、良い目で見られていないだろう。



(汐美さんも、周囲から色々言われてるんだろうなぁ)



 想像するだけでも嫌な気分になって、青海は顔を髪で隠した。



「あら、どうしたの? 具合でも悪い?」

「あ、いや、大丈夫。ちょっと疲れただけ」

「まだ産後からあまり経ってないものね。ごめんなさい、無理に付き合わせちゃって」

「いえ……」



 手を引っ張られて、ベンチに座らされる青海。



「ちょっとここで座って待ってて。とってもおいしいジュースを買ってくるから」



 言うや否や、汐美は駆け足でどこかへと行ってしまった。


 ふと、コソコソ声が聞こえる。



「本当に、何なのかしらね」

「どうせ、パパ活とかで楽にお金を稼ごうとしたり、ホステスに騙されてたんでしょうね」

「本当は記憶喪失のフリをしてるんじゃないの?」

「あの顔もどうせ整形よ。ろくな人間じゃないわね」

「顔の顔を見て見たいわ」

「過去を全部打ち明けさせて、汐美さんの目を覚まさせてあげたいわ」

「全くだわ」




(ボク自身が一番、自分の過去を知りたいよ)


 

 そうすれば、少しは気分が楽になるかもしれない。

 胸を張って生きられるかもしれない。

 赤ちゃんにも向き合えるかもしれない。


 コソコソ話をしていた2人組をにらみつけると、意気地なしにもそそくさと逃げていった。



「……はぁ」



 ため息をついても、気分が晴れない。

 ずっと心の中でしこりが大きくなり続けている。


 憂鬱な気分を味わいながら、無意識に左腕の噛み痕を撫でるのだった。





―――――――――――――――――――――――

更新が遅れて申し訳ございません


リセマラが終わらない……

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